2004 No.52
(1220 -1226)

アドレス 
中国北京市
百万荘大街24号
北京週報日本語部
電 話 
(8610) 68326018 
(8610) 68886238

>> 経済

 

ドル資産の減少についての分析

最近、中国人民銀行(中央銀行)は外貨準備への対応策に苦慮している。また、同行が米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策を見習い、上海支店を開設するといううわさによって再び世界中の注目を浴びることにもなっている。

馮建華

さる11月25日、中国社会科学院世界経済政治研究所所長の余永定氏は上海市で開かれたフォーラムで「中国はすでに外貨準備の中の米ドル資産が目減りし始めた」という発言を行った。氏は中央銀行の貨幣政策委員会メンバーでもあるため、その発言が発表されるやいなや直ちに海外の大手メディアに転載され、そのうえさらに米ドル債券が一時投げ売り状態になって暴落した。米財務省に「抗議されて」、余氏は自分はいかなる外貨準備に対する措置も知らないという、報道内容を否定する声明を発表し、その後外国為替市場は買い戻された。

しかし、「余永定氏の発言」がまだ耳もとに残っているという時に、「ドル資産の目減り」についての報道が流れ始め、攻撃の矛先は国の金融安全システムに向けられた。12月2日、中国人民銀行副頭取の呉暁霊氏は北京で開かれた第6回中国経済学者フォーラムで、「中国は外貨準備の中のドル資産の割合を大幅に減らしている」という言い方を否定し、次のように語った。

中国の金融マクロコントロールには依然として多くの問題が存在しており、為替管理では外貨貯蓄の伸びが増えすぎている。にもかかわらず、中央銀行としてはみずからの財務バランスシートよりも、まずマクロ経済の安定を保証しなければならない。

なお、同日付の経済専門紙、「21世紀経済報道」は次のように報道している。

中国人民銀行は最近、同行の一部機構を中央銀行の上海支店として開設、運営させ、それにある程度の自主的決定権を持たせるという「大胆な構想」を打ち出した。この構想は遅くとも来年上半期には現実となる。銀監会(中国銀行監督管理委員会)の発足以来、中央銀行として貨幣政策を独自的に実施するという中国人民銀行の機能強化がますます重視され、またFRBと同じように貨幣政策を独自に実施することへの期待も高まっている。しかし、この政策決定の独立性は現行の政策には明確に具現されていなかった。そのため、中央銀行の支店開設についての構想を見ても分かるように、中国人民銀行頭取の周小川氏はFRBの金融政策を見習って、中央銀行を貨幣政策を独自的に実施できる本当の意味での中央銀行に築き上げようとしている。

この報道によって、マスメディアでは大きな騒ぎが起きた。

中国人民銀行はまた同日に公告を発表し、来年元旦から出入国する中国住民や外国人の一人当たりの人民元現金持ち出し及び持ち込みの金額をもとの6000元から20000元に引き上げることにした。中央銀行が出入国時の人民元現金の限度額を調整したのは11年ぶりのことである。

中国国内の外国為替準備高を減らし、人民元切り上げのプレッシャーを和らげるため、国家外国為替管理局は個人の自費出国(地域)留学などのための外貨供給範囲を拡大するとともに、個人が法律に基いて財産を海外に持ち出すことも認めた。中央銀行が出入国時の人民元現金の限度額を引き上げるのは、外貨準備高が過大になることによってもたらされた人民元切り上げのプレッシャーを和らげるためである、と見ている専門家もいる。

上海支店の開設は現実的ではない

中国社会科学院金融研究所の易憲容研究員は中央銀行のこの「大胆な構想」について次のように語っている。

この構想はよいものだが、問題はFRBのパターンははたして中国に適するかどうかということにある。

中央銀行の現状から見れば、制度の整備はまだ十分とはいえない状況にあり、FRBのパターンを模倣することは砂中に楼閣を築くということになり、決して現実的ではない。コスト計算を分析すれば、金融機関ではすでに余剰人員が多すぎるのに、上海支店を開設するなら、より多くの機構や官僚が生み出され、引き合わなくなってしまうだろう。

中国人民銀行にとって、当面の最大の問題は行政権力の介入が多すぎるため、市場のルールに基づいた運営が難しいということである。

中国人民銀行が本当の意味での中央銀行になろうとするなら、既存の仕組みを着実に調整しさえすれば十分実現可能なはずで、FRBのパターンをとることに限らないだろう。当面最も問題となっているのはより大きな独立性を求め、中立的な立場で利率などを効果的に運用し、より中立的な政策やルールを制定することである。

「ドル資産の目減り」をめぐっての議論

今年9月末現在、中国の外国準備高は5145億ドルに達するものとなっている。そのうち、ドル資産は(主に米国債)は少なくとも約3000億で、60%以上(80%と推定する専門家もいる)を占めるに至った。ドルの大幅下落がすでに決定的となったため、中国の巨額の外貨準備高の価値保全と増大は、大方の注目を集める焦点の一つとなった。

最近、ある専門家は大手メディアに文章を発表し、次のように指摘している。

米ドルは少なくとも20%前後下落し、多い場合は40%下落する可能性もあるが、これは米ドルの価値下落によって中国側がこうむる為替差損は600億ないし1200億ドルに達することを意味している。しかも、ドル安はアメリカの利率上昇を引き起こすことになるが、利率が上昇すれば、かなりの部分の米ドル債券は銀行預金へと転化するため、その時価の下落を引き起こしかねない。利率が2パーセント、つまり、アメリカの10年物国債が今の4%から6%にまで上がれば、中国の外貨準備における米ドル債券の時価は少なくとも10%以上、すなわち300億ドルのロスとなる。結局、中国の外貨準備における米ドル資産に伴う為替と利率のリスクは900億ないし1500億ドルに達することになる。

中国人民大学中国経済改革・発展研究院院長の黄泰岩教授は次のように述べている。

ドルの下落に伴う「目減り」は避けられないが、どれぐらいのロスになるかは誰も判断することはできない。為替レートの激しい変動は正常な現象であり、いまのドルの下落は市況の下落だと言えよう。世界経済をリードするアメリカの経済的地位はゆるぎがないため、ドルがそれほど短期間に崩落することはありえない。そのため、われわれは平常心でドル資産の「目減り」に対処すべきであり、慌てる必要はない。

易憲容氏はこれについて次のように語っている。

優良な上場企業だと、景気がよくない時にはその株価も当然下落することになるが、もし投げ売りしなければ、この会社は評価が大幅に下がるという深刻な状況にあるということにならない。それはしばらくすれば会社の株価がきっと再度上昇するからである。ある意味では、外貨準備と株式市場とはよく似ており、異なるのは外貨準備は国の経済実力と信用をもってリスクの担保にしているため、価値の維持と増大の面で上場企業よりも安定性が強い、ということである。そのため、中国経済が依然として急速に成長しているさなかに、外貨準備はドル安によって損をしていると断言するものは経済学の基本的な常識に欠けるか、下心があるかということを裏づける以外にない。

今後の対応策

中国はいま外貨準備への対応策に苦慮している。つまり、米ドル資産の投げ売りを行うならば、他の国ぐにの中央銀行にも同様な行動をとるようにというシグナルともなり、米ドル危機の到来を加速させる結果となるが、一方、いかなる措置もとらないなら、手をこまねいて死を待つ以外のなにものではない。それは国際金融投機筋が今後二、三年のうちにドル危機を引き起こそうとするからである。そのため、この厳しい情勢のもと、中央銀行はリスク管理措置をとって最大限に外国為替の損失を減らすようにしなければならない。要約すれば、以下の三つの措置が挙げられる。

一、新しい米国債の購入を中止し、対米黒字をその他の通貨に切り換える。

二、米ドルの現金で原油、銅、アルミニウム、鉄鉱石、ダイズなど中国にとって必要な原材料及びプラチナ、金、銀など貴金属を大量に購入する。これらの原材料には価格維持の機能があるので、米ドルの価値下落でその価値にマイナスの影響が生じることはない。中国経済の高度成長はこれらの原材料の輸入を必要としているので、将来購入するより今購入したほうがトクだろう。

三、米ドル債券を売却すること。両替済み外貨を日本円やユーロなどのほかの通貨(外債)への繰り上げ返済に充てる。中国が保有している外債の中には、日本円(例えば、日本の対中円借款)やユーロ建てのものがかなりある。これらの融資の利率は「優遇」のようには見えるが、実のところ為替レートのリスクもかなり高い。中国の対外貿易は主にドルの決済で行われているが、今後非ドル債務を返済するにはドルをドル以外の通貨に交換しなければならないので、ドル安になるならば、中国の実質支出も大幅に増えることになる。いまから繰り上げ返済、特に円借款の返済をすれば、中国はドル資産の目減りによる差損を減らすことができる。非ドル債務を繰り上げて返済するメリットは、人民元とは無関係なので、人民元切り上げのプレッシャーを増大させることはない。

黄泰岩教授はこれについて次のように見ている。

いまから米国債の投げ売りをすれば、損失を既成事実にしてしまうことに等しい。この情勢の下では、中国は「慌てふためく」というかつての教訓の繰り返しを避けなければならない。その最もよい方法は、事態の推移を静観すること以外にない。現在保有している外貨準備の調整を行えないため、増加分の調整を行ってもよい。例えば、国際貿易ではいままでよりも多くユーロや日本円で決済してもよい。

易憲容氏はこう見ている。

冷静にドル安の局面に臨まなければならない。少なくとも向こう一年間、ドルが下落すればするほど外貨準備のドル資産の投げ売りを行うわけにはいかなくなる。さもなければ、中国は損ばかりをして、補填しようもなくなるだろう。人民元切り上げの予想により外貨準備高にもたらされた過大なプレッシャーを軽減するため、関係部門は最近一連の措置をとってきたが、短期間内に目に見える効果が現われるのは難しい。ドルの下落は2008年まで続くと予測している専門家もいるが、ドルの下げ止まりと反騰はそこまで待つことはなかろう。

現状に対する反省

中国政府の指導者は当面の状態から抜け出すことに強い自信を示している。ラオスを公式訪問していた温家宝国務院総理はさる11月28日夜、日本と韓国の首脳と会談した際次のように強調している。中国が外圧に屈して人民元の価値の再評価を行うことはない。人民元為替レートの調整は重要な経済政策であり、中国と世界の利益に影響を及ぼすため、中国政府は責任を負って対処するであろう。国家外国為替管理局、中国人民銀行及び関連機関もそれぞれ、人民元為替相場の安定は大局にかかわることであり、人民元為替レートのメカニズムの調整が行われることにはなるが、当面そのようなタイムテーブルはまだないことを明らかにした。

黄泰岩教授は次のように述べている。

一連の事実を分析すれば分かるように、中国政府はきっと今度の経済の難問を適切に処理するにちがいない。われわれはこのことを確信すべきである。現状をはっきり認識するほか、最も重要なのは中国の現行の為替政策と外貨準備の構造について反省を行うことである。

まず、人民元の為替レートを米ドルにペッグするという現行の為替政策に弊害があるのではないかということ。1997年のアジア金融危機の産物としてのこの為替政策はまだ中国の国情に合うものであるのかどうか。事実上、中国と同様な為替政策を取っている他の国もそれぞれの調整を行っている。例えば、ロシアではこの一、二年来、ユーロ準備を増やし、外貨準備におけるドル資産の割合を減らしていることがそれである。

第二、リスクを分散するため、米国債の過度の購入というこれまでのやり方を変えるべきかどうか。中国はアメリカの先物とその他の金融派生商品をもっと多く購入すべきかどうか。一歩さがって言えば、外貨準備におけるドル資産の割合が現在のように高いものでなければ、ドルが急激に下がる当面の状況のもとで、中央銀行はもちろん今のように焦りにさいなまれることもなかろう。