2004 No.08
(0216 -0220)

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最大の難題

李不易

―――農民の収入が長期にわたって低いことが、政府の悩みであり、それは全人民が関心を寄せる問題でもある。

中国では、都市と農村は2つの全く異なる世界である。

遼寧省阜新市細河区四合鎮?巴拉荒村の党員会支部の黄玉奎総書記は「叔母は遼寧省西部の貧しい農村に住んで10年以上になる。家は土造りで、老いた夫婦は土地を耕して食べるだけで精一杯だ。甥は町で働いている。1カ月400元。嫁をもらうのに3年分貯めなければならない。医療保険はないし、大病にでもなったらどうしようもない。現在、町では子供を外国に留学させる金持ちもいるが、一部の農村では、小学校に5、6年まで通っても、授業料が払えないため止めてしまう子供がいる」と話す。

2003年の農民1人平均収入は2622元。都市部は8500元で、比率は1:3.24。世界銀行の資料によると、世界の大多数の国では、都市と農村は1.5:1となっている。

農民の純収入のうち4割が実物による収入であり、2割が化学肥料や農薬などの生産材に使われていることを考慮すれば、1年間の可処分できる現金所得が1000元を超えることはない。一方、都市住民は生産関連の支出を考える必要はなく、さらに医療や失業などの補助金を受けることもできる。

2003年、王紹光と胡鞍鋼、丁元竹氏など著名な学者は『経済繁栄の背後にある社会の不安定』と題する報告の中で「経済繁栄は決して必然的または自動的に社会の安定をもたらすとは限らない.。歴史的に見れば、深刻な社会危機は往々にして経済の繁栄期に起きている。多くの発展途上国の経験から見れば、不公平で不公正な成長は忽然として社会危機による停滞、衰退ひいては崩壊をもたらす」と警告した。

また報告は「中国は再び社会不安定の時期に入った。執政者は必ず民意を聴取し、仁ある政治を行って住民の怨を払わねばならない」と強調している。

中国は農業大国であり、人口13億のうち9億が農民で、「三農」(農業・農村・農民の問題)は既に経済の持続的発展を妨げる重要な問題となっている。三農の中で最も重要なのが農民であり、農民にとって最も核心的な問題は収入増が緩慢であることだ。農民が豊でなければ、中国も豊かではない。

温家宝総理は先ごろ北京で中央政府の関連機関に対し経済情勢報告を行い、「私にとって最も困難なのは何か。やはり三農だ」と自問自答した。この問題は農民の収入増に関係するだけでなく、市場の需給の拡大、また供給の保障、社会の安定にも係わっている。

1978年に始まった改革は当初、農村からスタートした。改革の初期には確実に農民に恩恵がもたらされたが、1997年から収入の増加は難しくなった。まず第1は、収入の伸び幅が鈍ったことだ。1997年から2003年にかけて、全国の農民1人平均収入の増加幅は7年連続5%以下だった。最高の年で4.8%、最低で僅か2.1%、年平均で4%増と、同期の都市部住民の半分に過ぎない。

第2は、都市部住民との収入の格差が拡大し続けたことだ。1997年の農民の1人平均純収入は2090元、都市部住民の1人平均可処分所得は5160元で、比率は1:2.47。2003年の農民の収入は2622元、都市部は8500元で1:3.24である。

第3は、穀物生産を主体とする専業農家の収入増が更に難しくなったことだ。過去数年の間、多くの農産品が供給過剰となったために価格が下落し、農業による収入減がもたらされ、特に専業農家の収入が伸びなくなった。1997年には農業による純収入は1268元だったが、1998年から2003年までは6年連続してこの水準を下回っている。

農民の収入問題は直接、農産品の生産に係わってくる。農業による収入減が農民、特に農民の穀物栽培意欲に影響を与えるのは必至だ。

甘粛省望?県に住む農民、王在林さんは穀物栽培ではお金にならないため出稼ぎに出ている。「畑仕事をしても食べるので一杯。2人の子供を学校に行かせたり、肥料や日用品を買ったりするには現金が必要だ。出稼ぎに出なければやっていけない。全村の18歳から50歳の男たちのうち半数は出稼ぎに行っている。その収入が一家の財源だ」と話す。

この数年、農民の増収では出稼ぎが中核をなしており、2000〜2003年の3年間を見ると、収入増の47.8%が出稼ぎによるものである。

2000年から4年間に穀物生産は低下し続け、栽培面積も減少し続けている。2002年の面積は1億ヘクタールに過ぎず、1998年に比べ0.15ヘクタール減少した。

市場経済の下では、行政命令で農民に栽培を強いることで穀物生産を回復させ、増加させることが出来ないのは明らかだ。農民の栽培意欲を引き出すには先ず、栽培でお金が稼げるようにしなければならない。そのため、穀物の生産力を高めて穀物の安定供給を保障するにしても、農民の増収問題を解決しなければならない。

収入増の緩慢は直接、農村の購買力に係わるだけでなく、国内市場や内需の拡大に影響を及ぼす。

こうしたことを考慮して中央政府は、農業と農村経済運営で突出しているのは農民の増収であり、特に穀物生産地の農民の増収問題だとの認識から、2月8日、農民の収入増の促進を最優先にすると明確に提起した「1号文書」を公布した。

文書が公布された後、多くの農民が希望を見出した。

福建省普江市で農業を営む林和傑さんは71ヘクタールの田んぼを請け負っており、1997年に販売額で省内トップになった。「文書が農民の増収問題を捉えたのは、三農問題の核心を捉えたことだ。9億の農民は期待が持てるようになった」と喜びを隠さない。新しい政策では、穀物販売や大型農機具の購入の際に助成金が交付される。既に30台の農機具を持つ林さんは更に数台購入し、請負面積も拡大していくと自信満々だ。

中央財政経済指導グループ弁公室の陳錫文副主任は「農民の関心が高いこの文書は、農民の収入を増加させる基本的構想を提起すると共に、穀物生産地と貧困地区の農民の増収という2つの重点を強調している」と説明する。

1号文書は農民の就業の拡大と増収を促進する関連政策のほか、農産品市場の開拓や農業と農村への資金投入の増加、農村改革の深化などの政策や措置を打ち出している。

錫副主任は「農民の増収を農村経済活動の基本目標に確定したことは、農村活動の基本的構想の顕著な転換を反映している」と指摘する。

先ず1号文書は、「人を本とする」考えを映していることだ。農業の基本的機能は社会に食糧を提供することだが、農業にこの機能の円滑な発揮を促すには先ず、農業生産者の経済的利益を保障しなければならない。農民の収入が絶えず増加し、生活が絶えず改善されてこそ、農業生産は持続的な発展を遂げる。中央政府の農村活動会議は穀物生産の促進を強調したが、1号文書の中では、農民に穀物の生産を強制するいかなるやり方も講じることはせずに、穀物生産地の専業農民の収入に関して一連の政策と措置を制定している。農民の経済的利益を尊重し、農民の経営自主権を尊重していることは、「人を本とする」考えを示しているだけでなく、それは社会主義市場経済の下で農業と農村経済活動を円滑に進めるための必然的要件でもある。

次に1号文書は、正しい政治的業績観を映していることだ。農民は全人口の大多数を占め、農民が豊かでなければ、国全体も豊かで強くはなれない。従って、真の政治的業績観はGDP(国内総生産)の成長率がどれほど高いかにあるのではなく、どれだけ素晴らしい大規模プロジェクトを実施したかにあるのでもなく、幅広い農民が持続的に収入を増加させることができるか否か、物質と文化生活レベルを絶えず向上させることができるか否かにあり、中国が現代化を実現する過程でカギとなるものはここにある。

中国共産党学校「三農」問題研究センターの曽業松秘書長は「中国は数千年にわたり農業を本としてきたが、歴史的な『農業重視』は、重税を前提としており、重視したのは農民の生産力であって、全く農民の利益ではなかった。この種の農民の利益剥奪政策に随伴する農業重視は、農民にとって福音ではない。1号文書は農民の収入増の政策を謳った年度初めての文書であり、『人を本とする』発展を十二分に映している。文書は初めて『就業のため都市部に赴く農村労働力は既に産業労働者の重要な一部となった』と指摘しているが、この記述は現実に符合する。特に農民労働者の待遇改善と、農村労働力の職業技能訓練の強化を強調していることは、新世代の指導グループの新たな『農業重視』の考えを十分映している」と説明する。