中米共同で「台湾独立反対」が望まれる
いかにして台湾問題を上手に処理するかは、中米両国の重要な経済、政治、安全の利益に関わっている。共通の利益から、両国政府はともに台湾問題を上手に処理する重要性を意識している。
朱 鋒(北京大学国際関係学院)
さる12月9日にワシントンのホワイトハウスで行われた中国の温家宝総理とアメリカのブッシュ大統領の会談は歴史的な意義を持つものである。その意義は、ブッシュ氏がアメリカ大統領として「台湾独立に反対する」というアメリカの立場を初めて言明したことに現われているだけでなく、さらに重要なのは、中米の間に1982年の「八・一七コミュニケ」調印以来最も近い共通した認識ができたことである。これは中米関係史における人心を奮い立たせる出来事となっている。
ブッシュ大統領の発言は遠回しなものではあるが、はっきりした態度の表明である
温家宝総理とブッシュ大統領の会談の最も重要な成果は、アメリカの大統領に、「現状を変えるために一方的な決定を行おうとする台湾の指導者の言動に反対する」と言わせたことである。ブッシュ大統領は実に言葉が巧みで、とても上手だと言えよう。
表現が巧みというのは、ブッシュ大統領がその発言の中で、アメリカがもとの「台湾独立を支持しない」を「台湾独立に反対する」に変えるかどうかという、中米首脳会談の前に流れていたメディアや一般の人々の推測を巧みに避けたことである。ブッシュ大統領は「台湾独立に反対する」と言明したのではなく、「一方的に現状を変えることに反対する」とだけ強調したのである。しかし、台湾が「一方的に現状を変えようとする」ことは「台湾独立」を目指そうとするということは誰もが知っているため、ブッシュ大統領は、「台湾独立に反対する」というアメリカの立場を表明したわけである。「上手」というのは、1979以来の何回のアメリカ政府が「一方的に現状を変えることに反対する」という対中政策を取ってきたため、「現状を変えることに反対する」という言い方は、アメリカが現在「台湾独立に反対している」にもかかわらず、ブッシュ政府はこれまでに実行してきた両岸関係政策を変えてはいないと理解されてもよいのではないか。
ブッシュ氏が自分の新しい立場に対し苦心に苦心を重ねた「表現の処理」を行った原因はごく簡単だと考えられる。
一、ブッシュ政府がアメリカの従来の両岸関係政策を変えようとしないためである。この政策は共和党と民主党の共通した認識を具現するものであり、しかも長期的な政策である。そのため、ブッシュ政府はこの政策を変えるために国内からの政治的リスクを引き受けようとしない。二は「文字の遊び」を続けて、できるだけアメリカに中国問題で主導的な立場を維持させ、最大限に自国の利益を求めさせるためである。また、字面ではアメリカは「台湾独立に反対する」という意味は表われてはいないため、ブッシュ政府は今後の両岸関係の発展方向に対しこれまでの「オープンな立場」をとって台湾支持勢力からの強い非難を避けると同時に、「一つの中国」という政策の裏にある「台湾地位未定論」と「曖昧な一致」を維持することになっている。第三、ブッシュ大統領は台湾当局に厳しい警告を出しながらも、アメリカの対中国政策に大陸への実質的な傾斜が発生したことによって台湾において大陸側の軍事的冒険を支持していると見なされたり、大陸の「武力行使の不放棄」政策に曖昧な態度をとったと大陸側に理解されているという印象を人々に与えようともせず、大陸であれ台湾であれ、現状を変えるいかなる一方的な決定にも反対するというアメリカの立場を表明したのである。ホワイトハウスは最大限に両岸関係の「仲介人」としての役を演じ、自国のために政策の弾力性を維持できることを望んでいる。
ブッシュの発言は根本的な変化ではなく、アメリカの対中国政策の調整である
ブッシュ大統領の発言から、アメリカの「一つの中国」の政策には根本的な変化があったのではなく、積極的で、建設的な調整が見られたことが伺われるのである。
それを「重大な調整」というのは、まず、ブッシュ大統領の発言がアメリカは新たな政策の重点を打ち出したことを披露したためである。アメリカはこれまでずっと、いわゆる両岸関係の最大の脅威となっているのは中国大陸からの「武力による威嚇」と「統一早期実現の主張」であり、アメリカが必要とするバランスの重点は中米国交樹立以来いわゆる「弱小」の台湾だとしてきた。しかし、今やアメリカの両岸関係に必要なバランスの重点は台湾からの挑発に移されるようになり、これは重大な政策的調整である。ホワイトハウスは現在台湾島内にはびこっている台湾独立勢力を軽視できず、それに介入するという政策的傾向がこの政策によって示されている。「一方的に現状を変えることに反対する」政策を踏まえた「台湾独立を支持しない」というもとの政策と比べれば明らかな進歩が見られ、「台湾独立を支持しない」という政策に含まれる曖昧な空間をかなり縮小した。
次に、重視すべきなのはブッシュ大統領の態度表明がアメリカの「反対」の内容を台湾指導者の「言動」に具現させ、アメリカから反対される「対象」の範囲を定めたことである。アメリカが一方的に現状を変えようとする「台湾指導者の言動」に反対することはかなりの度合いにおいて、「漸進的な台湾独立活動」も「台湾独立活動」であるという大陸側のこれまでの主張を受け入れたことを意味し、アメリカが台湾独立に反対するだけでなく、「台湾独立」を支持、主張、挑発する「言動」にも反対することを示すものである。
第三、ブッシュ政府は90年代以来アメリカの対台湾政策を支えてきた基礎の一つである「台湾民主論」を突破し、従来のアメリカ外交の「民主への価値志向」を抑え、台湾のいわゆる民主化プロセス及びアメリカの民主尊重を「口実」に、アメリカが台湾問題で果たすべき安定と平和維持の役割を避けないようにした。アメリカ政府が海峡両岸の中国人の安寧と東アジア地域の安定をアメリカの台湾に対する「民主的感情」の上に置いたのは90年代に入って以来初めてである。
ブッシュ大統領の発言は中米関係、ひいては東アジアの安定にとって重要な意義を持つものである
ホワイトハウス・スポークスマンは記者会見で、アメリカの従来の両岸関係政策に変わりはなく、ブッシュ大統領の対中国政策についての態度表明にこれまでの「一つの中国」の政策と一致しないところはないと何度も強調しているにもかかわらず、アメリカが「新たな政策の要素」をもった「既存政策」を実行しようとすることも否認できない。
アメリカ政府がこの政策調整を実施することを実現させた第一の要素は、中国が実務的な態度で両岸関係の問題に対応し、理性的で確固不動の政策を実施していることにある。アメリカは中国を落ち着かせ、外交手段を利用して中国がアメリカの「介入能力」の低下にがっかりして一方的に行動を取らざるを得なくなることを避けようとすると同時に、アメリカがはびこっている台湾独立勢力を黙認したため中国の不満を買ってシコリを残すことをも避けようとしている。ホワイトハウスは自分の「台湾独立反対」政策を表明しないならば、今後の台湾独立勢力の発展はアメリカにさらに大きな危機とトラブルをもたらしかねないことを認識するようになった。
最近、台湾の住民投票問題をめぐって引き起こされた中国大陸、アメリカ、台湾の三者関係の動揺によって、中米両国の指導者は非常に厳しい挑戦を突きつけられた。台湾島内で日増しに騒ぎを高める台湾独立勢力が政治的権力を維持するために持ち出した「肝っ玉を大きくして勝負に出る」という冒険的な政策がそれである。この政策は両岸問題を平和裏に解決するという大陸の政策空間を縮小するものであるだけでなく、いわゆる「民意」に訴えることを通じて「戦争瀬戸際政策」をもてあそび、両岸間の紛争の拡大を招き、百方手を尽くして大陸側の強い反応を引き起こして台湾の人々の気持の感情をあおりたてようと企んでいる。陳水扁をかしらとする民進党とその他の台湾独立勢力は原則と理性を重んずることなく、票集めをするために狂気じみた行動に走り、台湾の民主をけがし、島内の2300万の中国人の福祉と安寧を駆け引きの道具にし、両岸関係を政治的ばくちと見なしている。中米両国が台湾独立勢力のこの利欲に目がくらんだ言動を放っておくと、中米両国は責任を負う大国としての資格もなくなれば、人々に尊敬される大国になる資格もなくなることになる。
その次に、ブッシュ大統領の態度表明は絶えず拡大している中米両国の共通した利益から来たものである。中米両国は1979年の国交樹立以来、経済貿易関係は大きく発展している。二国間の貿易額は当時の26億ドルから2003年の1000億ドル以上にのぼり、中国で生産やサービス業に携わっているアメリカの会社は4万もあり、アメリカの対中国投資は430億ドルに達している。両国の人的交流も絶えず拡大している。中米間の建設的な協力関係を維持できるかどうかは両国人民の福祉に関わるだけでなく、東アジア地域ひいては世界の繁栄、安定及び平和にとってもきわめて大きな役割を果たすものである。「米同時多発テロ事件」以後、中米両国の二国間と多国間のテロ反対協力も絶えず進展を遂げている。朝鮮半島の非核化問題も両国の協力を強化し、地域安全を維持するうえでの新たなきずなとなった。中米関係には人権と価値観の問題をめぐっての食い違いが存在しているが、昨年からまたしても人民元の切り上げという新たな論争も起こった。中米間の貿易摩擦と貿易バランス問題もたびたび起こっている。人権問題には相互尊重を踏まえた対話を通じて意思疎通を行う必要があり、貿易摩擦激化の改善には双方の新たな貿易政策の実施、市場の拡大化、敵視的な輸出抑制政策の緩和がなくてはならない。また、ますます深刻化する経済貿易をめぐっての論争は中米の経済分野における相互依存の度合いの拡大を反映し、当今の世界経済における中米両国の経済貿易に実質的な発展が見られた結果である。温家宝総理は訪米期間中、アメリカ側に中米経済貿易関係を対処、強化する五原則を打ち出した。現在、中米両国は双方の貿易紛争に実務的な態度を示しており、両国の指導者はともに中米経済貿易の協力と発展の勢いを維持すべきだと見ている。こうした情勢の下で、いかにして台湾問題を上手に処理するかは、中米両国の重要な経済、政治、安全の利益に関わることである。共通の利益から、両国政府はともに台湾問題を上手に処理する重要性を意識している。
アメリカ政府にこの政策調整を実施することを実現させた第三の要素は、ブッシュ政府がイラク復興に追われて、戦略の重心をずっと中東地域に置いていることにある。アメリカは台湾当局がアメリカの戦略計画をぶち壊し、ブッシュ大統領の2004年の大統領再選再任に新たな難題を突きつけることを望んでいない。
要するに、中米両国の指導者の重視のもとで、両国関係が絶えず着実かつ安定的な発展をとげることにともない、中米間の「台湾独立」反対は望みがあるだけでなく、今後の中米関係の建設的な協力に新たな原動力ともなろう。
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