2004 No.05
(0126 -0130)

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増え続ける老人世帯

―――老齢化社会を迎えた中国では今、子どもが同居しない老人だけの世帯(独居或いは夫婦のみ)が増え続けている。長年にわたり子どもに依存する生活に慣れてきた老人にいかに幸せな晩年を送らせるか、政府は非常に難しい社会問題に直面している。

馮建華

68歳になる張徳清さんはこの2年来、毎週水曜になるとラッシュアワーを避けてバスで病院に検査に行くため朝早くに家を出る。長年執筆の仕事に携わり、生活が不規則だったため退職を前に多くの慢性病を患っているのが分かった。

張さんは3年前に奥さんを亡くし、今は独り暮らし。2人の息子がいるが、独立してからは他の若者と同様、家を買って父母のもとを離れた。週末に時間があれば時たま父母に会いに来るが、普段はほとんど電話で連絡し合っている。

「別居生活は双方にプラスだ。若い世代はより自由になれるし、年配者も静かな生活が送れる。寂しいと感じる時もあるが、これは社会の流れだろう。周りにも老人世帯が増えているので、平気だよ」と張さんは笑う。

老齢化社会に入った中国では、張さんのような独居老人は決して“孤独”ではないかも知れない。2000年の第5回国勢調査によると、60歳以上の老齢人口は既に1億3100万人と総人口の10.4%を占めた。その後は年平均3%で増加していると予想され、これで試算すると2003年には1億4000万人に達して同11%の増。80歳以上の高齢者の増加率は年平均5%と見られている。全国3億4000万世帯のうち、65歳以上の老人がいる家庭は20%を超えており、そのうち老人だけの世帯は23%を占めて2340万人超。

20年前まで求められてきた3世代同居、という大家族的な考えに比べると大きな変化だ。全国老齢委員会弁公室の趙宝華副主任によると、都市部では老人世帯は既に老人同居世帯総数の30%に達しており、2010年には80%を超えると予想される。上海の老齢人口は250万人(常住人口は約1700万人)、そのうち約40%が独居老人で、天津の市街地では62%を超えている。

独立して別居生活する若者が増えていることから、都市部の老人世帯は今後も増え続けるだろう。しかも老人世帯はこの数年、都市ばかりでなく伝統的な考え方が強い農村部でも幅広い範囲で見られる。

北京・老人世帯の生活の実情

北京市が老齢化社会に入ったのは1990年、人口の老齢化では全国でもトップクラスで、この10年間に老人世帯は著しく増加している。北京市老齢協会は老人世帯の状況を全面的に把握するため、様々な手段を利用して現実を反映した調査報告書をまとめた。弊誌は数日前、同協会の陳誼副会長を取材した。

調査によると、北京市の老人世帯は2003年時点で老人同居世帯総数の38%、約69万人で老齢人口の40%を占める。老人世帯のうち夫婦のみは3分の2、独居老人は3分の1。

生活資金源を見ると、67%が主に退職金に依存しており、平均月収は855元と、北京市の最低生活保障金と同じ水準だ。一方、月収が1500元(北京市の2001年の従業員・労働者平均賃金は1310元)以上の老人は15.4%、500元以下は33%を超えている。

生活資金源に関しては、都市と農村に大差はない。都市部では93%の老人世帯が退職金で生活しているが、この比率は農村部では僅か14%前後で、62%が主に子どもの世話を受けている。体調については全体的に楽観視できない状況で、68%が慢性病を患っており、なかでも高血圧や心臓病、糖尿病が多い。

調査で最も心配している問題は何かと聞いたところ、「病気になっても治療を受けるお金がない」が約40%、「生活資金源がない」が30%。だが、現在の経済状況については「大体足りる」が85%を超えており、「やや困難」が約13%、「非常に困難」は僅か2%に過ぎない。

陳副会長は「この数字から見ると、老人世帯の生活状況は総体的に良いと言えるが、現在、治療費や薬代は非常に高く、また老人は一般に体力的に劣るため、今後の経済的保障を懸念しないわけにはいかない」と話している。

また陳副会長は「調査では、子どもが傍にいない老人の多くが孤独で寂しさと言っていた。その思いはとりわけ独居老人で際立っており、コミュニティーの活動が少ないことと関係しているのではないか」と分析する。調査によると、コミュニティーが組織する娯楽活動は総じて単調で、73%が参加したことがないと答えており、時たま参加する老人は15%に過ぎない。

老人が孤独を感じているからか、『いつも会いに家に戻ろう』という歌がこの数年、世代を越えて各地で歌われている。中国老齢科学研究センターの徐勤研究員は「この歌がヒットしたのは、社会の幅広い人の心の声を歌い上げているからではないか」と話す。

老人世帯が増えるのは何故か

斉盛国さん夫婦は北京市の宣武区白紙坊西街近く、面積約65平方メートルの2DKの古いアパートに住んでいる。80年代には勤務先が部屋を配分する政策がまだ実施され、しかも個人が商品住宅を購入するのは困難だったため、2人の息子は仕事に就いても長い間、両親と同居せざるを得ず、長男の結婚後、次男はダイニングで寝起きしていた。

90年代に入ると、商品住宅市場は徐々に成熟していく。経済の発達した一部大都市では価格は急騰したものの、購入熱は衰えることはなかった。斉さんの長男は1995年に住宅を購入して引っ越し。4年後、次男も恋人と努力して住宅を手に入れ、じき新しい部屋で新婚生活を始めた。

2人の息子が離れた後、斉さん夫婦は「もともと広い家ではなかったが、広く感じて難だかむなしいが、ずいぶんと静かになった。2人の息子は私たち専用の部屋を用意してくれているが、まだ1晩も泊まったことはない。自分の部屋で寝るのが一番心が落ち着く」と話している。

徐勤研究員は「経済が発展し、都市の居住条件が改善されるに伴って、年代ごとに独自の生活様式が形成され、より自由な生活空間を求めるようになってきた。これが都市部で老人世帯が急増している1つの深層的な要因だ」と分析する。

さらに徐勤研究員は「農村部でも老人世帯が増えているのは、経済環境が益々開放されていることと無縁ではない」と指摘。都市化の加速に伴い、農民が大量に都市に流動するようになり、一部農民は都市で事業を興すなど、農民が“市民”或いは“準市民”となったことが要因だという(多くの年老いた両親は都市の生活に馴染めず同居を望まない)。

政府が人口の過度の増加を抑制するため計画出産計画を実施して既に数十年になり、現在、第1期の1人っ子が結婚適齢を迎えている。一般的に言って、彼らは個性ある自由な生活を追求するタイプで、その大半が結婚後は両親との別居を望んでいるため、老人世帯は急増すると見られる。

徐勤研究員は「21世紀には都市部、多くの農村部でも老人世帯が主流になる」と予想している。

各政府が老人世帯対策に

徐勤研究員によると、老人世帯の半数が独居老人か経済的に貧しい老人だ。1人っ子家庭が急増するにつれ、1組の夫婦が双方の両親、4人の老人を扶養する状況が増えつつある。「都市部では老人の多くが養老年金を支給されているため、経済的に扶養することはそう大きな問題ではない。だが一方、農村部では養老年金がないため、子どもが両親の面倒を見る負担は大きく、老人世帯は政府が直面する重大な社会問題になるだろう」、と徐勤研究員は指摘する。

民政部や各地方政府も老人世帯に関心を寄せ、様々な対策を講じている。

老人は急病になりやすいが、同居する子どもがいなければ、速やかに治療できない可能性がある。そのため民政部は、急を知らせるベルを老人世帯に設置或いは携帯させることで、すぐさま応急措置が講じられる対策を実施。この措置は北京や上海、南京、福州など多くの都市で普及している。

北京市官園団地に住む呂さんは今年74歳。心臓病を患っており、今は独居老人。去年のある夜、突然発作を起こし「救急ベル」を押した。知らせを受けた担当者がすぐさま呂さんを病院に搬送、死線をさ迷っていた呂さんは治療を受けて助かった。

同市崇文門外通りに住む老人世帯、約200人も呂さんと同じように救急ベルを設置している。診療や買い物、急用の際にベルを押すと担当者が駆けつけて援助してくれる。

昨年末、北京市は老人世帯を対象に従来の救急ベルより応急性の高い「緊急救助システム」を起動させた。同市赤十字急診救急センター指揮本部の田振彪副主任は、新システムについて「急病になった場合、老人が携帯する『呼び出し器』のボタンを押せば、老人の氏名や性別、住所、病歴、契約病院、連絡場所などがすぐにコントロールセンターのモニターに表示されるため、老人は家で救急治療を待つだけですむ」と話している。

徐勤研究員は「長期的にはやはり、コミュニティーを主体にした養育をモデルにすべきだろう。養老保障体制はまだ完備されておらず、養老機構の数量やサービスの質も市場のニーズを満たすまでには至っていないが、一方で老人は伝統的な考え方、家が恋しいとの気持ちを強く持っている。そのため、養老院や老人病医院、老人のための法律サービスセンターや心の相談所など、社会福祉と社会保障体制を更に完備して、良好なコミュニティー環境を整備していくことが肝要だ」と指摘する。

更に徐勤研究員は各地方政府に対し、老人問題を論議し、この問題に関する長期計画を作成すると共に、老人の要望を把握するため、早急に広範囲な老人調書と連絡制度を策定するよう求めている。