2005 No.02
(0103 -0109)

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中国、「積極財政」から「穏健財政」へ

「穏健」財政政策の実施は、中国経済に大きな起伏が現れることを防止し、インフレをコントロールし、高投入、低産出の粗放な経済成長の局面を転換し、中国経済の持続的かつ安定した成長を保つ面で役立つことになる。

本誌記者 蘭辛珍

昨年12月5日に北京で開かれた中央経済工作会議は、「来年は穏健な財政政策と貨幣政策をとる」ことを打ち出したが、これは穏健な財政政策が中国で7年間実施されてきた積極的な財政政策に取って代わることを示すものである。

穏健な財政政策の骨子は、インフレ傾向の拡大を抑えるとともに、デフレ傾向の再発も防ごうとするもの、投資需要の膨張を断固抑えるとともに、消費需要の拡大に努めるもの、投資過熱業種を引き締めるとともに、経済・社会発展の弱い部門を重点的にサポートしようとするものである。

中国財政部の金人慶部長は「穏健な財政政策の重点は、赤字抑制、構造調整、改革推進、増収節支(収入増加、支出節減)といういくつかの面にある」と述べている。

金人慶氏によれば、赤字抑制とは、財政赤字を適当に減らし、長期建設国債の発行規模を適当に減らすものである。構造調整とは、科学的発展観と公共財政(パブリック フィナンス)の要請に従って、財政支出構造と国債資金の投入構造を重点的に見直すことに力を入れることにほかならない。政府の資金は、国の発展計画で決められた戦略発展目標や農業、林業、水利、生態系保全、国土整備、西部開発、東北地区の旧工業基地を振興するための重点プロジェクトおよび公共衛生システム、教育、科学・技術の進歩、社会保障とかかわりのあるインフラ建設と付属施設の建設などに重点的に使用されることになる。改革推進とは、主に国債による事業への投資に頼って経済成長を牽引する方式を転換し、一定規模の中央財政投資を確保しながら、国債事業投資枠を適当に減らし、一部の財源を捻出して、体制と制度の改革推進に充て、財政・租税の面で市場主体と経済発展たのための総体的に緩やかな環境を整え、経済の自律的成長に役立つ長期的なメカニズムを構築することにほかならない。増収節支とは、全般的な税負担が増えないか、やや減ることをふまえて、法律に基いて厳格に徴税をおこない、財政収入の安定した伸びを確保し、同時に支出の伸びを厳格に抑えることにほかならない。

穏健な財政政策をとる理由

1977年にはアジアで金融危機が起こった。中国政府はその影響を防ぐため、1988年から長期建設国債の増発と国債投資の増加を主な内容とする積極的な財政政策を実施してきた。1998年から2004年までの7年間に、長期建設国債が合計9100億元発行され、それに牽引されて総投資の規模は約3.5兆億元に達し、毎年GDPの伸びを1.5から2ポイント前後牽引し、中国経済の持続的で、安定した、急速な発展を大いに促進した。

しかし、積極的な財政政策の本質は拡張的な財政政策であり、特徴は巨額の国債と巨額の財政赤字で国内経済を牽引するものである。巨額の財政赤字が続けば、実像が見えにくい地方の財政リスクにぶつかると、財政リスクが誘発されやすい。

2002年と2003年の中国の財政赤字は2年つづいて3198億元であり、赤字率(GDPに占める財政赤字の比率)は3%という国際公認の警戒ラインに迫り2.9%に達した。

2004年の初頭に、投資過熱の現象がまたも中国に現れたため、同年の下半期にはインフレの傾向も目に付くようになった。国家統計局の統計データによると、2004年9月の住民消費物価レベルは前年同期より5.2%上昇し、5%の警戒ラインを上回り、中国のマクロ経済の発展に影響を及ぼすプレッシャーとなっている。このため、中国政府は金融を引き締め、重点業種への投資を制限し、銀行の預金と貸付の金利を引き上げるなど一連のマクロコントロールの措置をつぎつぎと打ち出した。

積極的な財政政策が引き続き実施されれば、固定資産投資の過度増加をコントロールし、インフレ傾向が緩和されるどころか、投資と消費の比率のアンバランスを深刻化させ、経済の健全な運営により大きなリスクとプレッシャーをもたらし、マクロコントロール政策の効果に影響を及ぼすことになる。

そのため、「積極的な財政政策を切り換えなければならない」と金人慶氏は述べている。

現在、中国経済の全体に過熱が現れたわけではなく、経済社会の発展における農業、教育、公共衛生、社会保障などの多くの弱い分野が差し迫って強化されなければならず、それに近いうちにひどいインフレが起こる可能性がそれほど大きくないので、積極的な財政政策を急に引き締めの財政政策に変えるべきではない。そのため、中央政府は来年は穏健な財政政策を実行するということを打ち出したわけである。穏健な財政政策は拡張も引き締めもせず、予算と収支で基本的なバランスを保つことである。

財政部財政科学研究所の賈康所長は、「穏健な財政政策は現段階の中国の経済情勢の発展、変化に適応したものであり、マクロコントロールが必要とするものである」と述べている。

中国の財政収入の増加は、積極的な財政政策の退出のために条件を整えた。国家税務総局の公表したデータによると、2004年の1〜3四半期に、中国の税収は合計1兆9257億元となり、前年同期より26.3%増で4014億元増えた。また、年間を通じての増収は5000億元となると推測されている。

金人慶氏の説明では、穏健な財政政策の実施後、現在、中央の財政赤字の規模はだいたい3000億元に保たれ、財政赤字率は今年2%ぐらいまで下がると推測されている。長期国債発行はこの2年間に意識的に減らすことによって、03年は02年より100億元、04年は03年より300億元減ることになった。今年は昨年より低いものとはならない。

投資過熱業種はより大きなプレッシャーに直面

一部の業種に起きる投資過熱の現象を抑えるため、中国政府は2004年からマクロコントロールに乗り出し、不動産、鉄鋼、セメント、電解アルミニウムなどの業種に対し銀行融資とプロジェクトの立件審査制度を厳格にすすめてきた。穏健な財政政策の実施で、これらの業種はより大きなプレッシャーに直面することになろう。

中央経済工作会議の趣旨に基づいて、今年の国債資金は主に次の五つの面に投入される。

@建設中の長期プロジェクト、A農村基盤施設の建設と農業の発展、B企業の技術革新と技術改造、C西部の発展を促進できる業種、D耕地を林業用地に戻すプロジェクト。

国債投資の重点が経済建設の分野から公共サービス分野に変わることは明らかである。

国の財政収入および国債の大部分は積極的な財政政策が実施された時期に、すでに国債や銀行の融資、地方財政投入の形で経済建設分野に投入されてきた。

過熱業種の資金は、かなりの部分が銀行の融資と財政支援によるものであった。一部の不動産プロジェクトでは、銀行の融資が総投資の70%以上を占めており、一部の国有のセメント工場、製鋼所が規模拡大に投入した資金はすべて地元の財政によるものであったが、地元の財政のほとんどはほかでもなく中央の投資であることが統計で明らかされた。

2005年の国債使用についての中央の決定によって、過熱業種が銀行融資と地方財政援助を獲得することがさらに減ることになる。

「生産プロジェクトへの国債投資を減らし、銀行が都市部建設と不動産業種などの業種への融資規模を減らすことを導くことは、生産手段及び投資に対する市場の需要を抑制するとともに、不良融資の増加を減らすことに役立ち、しかもマネーサプライを減らし、インフレを抑えるためにゆったりした環境を整えることになる」と財政部の楼継偉副部長は述べている。

経済発展に影響を及ぼすことになるか

穏健な財政政策を実行し、国債の発行と建設プロジェクトへの投入を減らすことは、経済成長のスピードに影響を及ぼすかどうか。

中国社会科学院金融研究所金融発展室の易憲容主任は次のように述べている。「穏健な財政政策の実施で、地方への建設資金が少なくなるが、現在の経済成長のスピードに影響を及ぼすことはない。そればかりか、投資と建設がわりに弱い部門は国家財政からの援助を獲得し、経済発展がいっそうバランスが取れるようになる。

また、積極的な財政政策から穏健な財政政策への転換は「急転換」ではなく、穏やかで、着実に財政支出構造と国債投資構造を調整することである。今後、政府は普通の競争的、営利的プロジェクトおよび投資過熱業種に資金を投入しなくなる。

「穏健な財政政策と積極的な財政政策の違いはただ資金サポートの目標しか変えないことであるが、政策の連続性を保つため、近年来の長期建設国債による援助の重点と建設中のプロジェクトはこれからも援助され続ける。しかし、新規着工プロジェクトは厳格にコントロールされ、低いレベルでの重複建設やあまりにも先取れた建設プロジェクトは断固制止される。財政政策の変化は投資構造の不合理を抑え、中国経済をより健全に発展させることにほかならない」。

中国社会科学院経済研究所の傅元研究員はこう見ている――穏健な財政政策の実施によって、GDPの伸び率が下げるものに違いないが、これこそまさに実施の目的であり、GDP伸び率の低下によって経済の発展に影響を及ぼしたと言うものではない。

また、当面、中国の経済発展の全般的需要と相対的な供給がほぼバランスのとれた状態にあり、経済発展における最も大きな問題は構造調整であって、総量コントロールではない。そのため、投資拡大で経済を牽引することを特徴とする拡張的財政政策はすでに経済の発展に適応しえなくなっている。財政政策の積極型から穏健型への変化は、中国経済の健全な発展を保つことであり、さもなければ、経済の発展に影響を及ぼすことになる、と易氏は見ている。

「穏健な財政政策を実施する意味は、適切に財政赤字をコントロールするとともに、国債の規模を減らし、国債支出を調整することを通じて、国債資金の使用におけるマイナスの影響を減らし、投資過熱業種をさらに抑えることにある」。

資料

1988年―2004年

中国が積極的な財政政策の実施であげた成果

中国は1988年から積極的な財政政策を実施し始め、インフラ建設への投資を増やした。それ以後の5年間に、農村の電力網改造に3000余億元投入し、ほとんどの農村の電気料金が都市部の2倍から都市部並みのレベルまで下がるようにした。これだけでも、毎年農民の経済負担を400余億元減らすことになった。また、中国の道路開通距離は180万キロに達しており、全国の99.6%の郷・鎮と91.9%の行政村に道路が通じることになった。農村の情報化プロジェクトも進展をとげ、86.7%の行政村がラジオ放送とテレビ番組を受信できるようになり、すべての県クラス都市および一部の郷・鎮はインターネットへのアクセスが可能となった。このほか、93%の農村に小学校がつくられ、この2年間の適齢児童入学率は98%以上に達することになった。