2005 No.11
(0307 -0313)
 

アドレス 
中国北京市
百万荘大街24号
北京週報日本語部
電 話 
(8610) 68326018 
(8610) 68886238

>> 重要文章

理性的かつ実際的な道

黄衛

――調和の取れた社会の構築が政府と公民共通の目標となった。

温家宝総理が3月5日に真摯な姿勢で確約したことで、河南省武陟県の農民・張忠良さんは、自身の希望が近い将来実現されると信じることができた。張さんの希望とは、自宅に2部屋増設し、自動車を購入することだ。

温総理は第10期全国人民代表大会(全人代)第3回会議で、就任以来2度目となる政府活動報告を行った。この際、年内に国が指定した全国592の貧困撲滅開発重点県を対象に農業税を免除すると共に、牧畜業税の徴収を全て免除するほか、2006年には全国範囲で農業税を免除する方針を明らかにした。5年かけて実施するとした従来の計画より、2年前倒しされる。

この政策の恩恵を受け場合、張さんの収入は耕作面積1ヘクタール当たり年間にして4200元(1元は約13円)増加する。張さんはこう話す。「これまでは土地を耕しても稼ぐことはできなかった。だが、これからは土地が多ければ、それだけ懐は豊かになる」

農民や教育を受ける機会を失った児童、レイオフされた従業員、低所得者層、鉱山労働者、エイズ患者に対し温総理は就任後、多くの関心を寄せてきた。彼らは数年後、政府の歳出によって最大の恩恵を受けることになる。温総理は彼らの切実な問題を解決すると共に、次の報告の中で、今期政府による「社会主義の調和の取れた社会を構築する」との執政理念に関して詳述することも確約した。社会主義の調和の取れた社会について温総理は「民主的法治・公平と正義・誠実と信頼と友愛・溢れる活力・安定した秩序・人と自然との調和」を提起している。

理性ある選択

昨年秋、中国共産党第16期第4回全体会議は『党の執政能力強化の整備に関する決定』を採択。海外のメディアから「自己批判精神」に溢れると報道されたこの文書は、明確で誤りのない口調で全党に対し「平和時でも困難やリスクに備え、憂慮する意識を増強しなければならない」ことを求めると共に、「調和の取れた社会」という執政理念を初めて打ち出した。共産党が文書の中で、調和の取れた社会の建設を経済や政治、文化の整備と同様に重要な位置に据えた上で、中国の特色ある社会主義事業の全体的な枠組みを、経済と政治、文化の三位一体から、経済と政治、文化、社会からなる四位一体へと拡大させたのは、今回が初めてだ。これを契機に、「調和の取れた社会」という言葉はメディアに頻繁に登場するようになり、熱を帯びていった。

権威筋は「この理念の提起は、まさに時代にかなったものであり、共産党の、自らが治めるこの13億という人口を抱える巨大な社会に対する理性ある、かつ覚醒した認識が表出されたものだ」と評価している。

香港中文大学政治・行政学部の王紹光教授は「改革開放を実施して26年来、中国経済は平均9.4%の年成長率を維持しており、生活レベルは全体的に大幅に向上し、人類史上最大の奇跡を遂げた。だが、この高度成長は代価を伴ったものであり、一部で深刻化するなど、様々な矛盾が噴き出してきた。ポケットには多くのお金はあるが、大気は汚染され、クリーンな空気や水を得るためより多くのお金が必要になった」と指摘する。

世界銀行の試算によると、大気と水汚染による損失が国内総生産(GDP)に占める比率は8%に上る。中国科学院の試算では、環境汚染で発展にかかるコストは世界平均より7%高いという。国家環境保護総局の潘岳局長が提示したデータにも驚かされた。がん死亡者は年間200万人に上り、大気汚染が深刻な地区では肺がん死亡者が良好な地区の4.5〜8.8倍、北京市ではがん死亡者のうち肺がんがトップを占める……。

また、貧富の格差の問題や、合法的な権益の保護が受けられない弱者の問題、陳情者を弾圧したりひいては暴行を加えたりする問題、「三農」(農民、農業、農村)問題、住宅地の開発が引き起こす問題、失業問題、治安問題など、異なる受益者の間での矛盾や摩擦も非調和的な要素となっている。

全人代常務委員会委員で、経済学者の暦無畏氏は「中国は農村部や都市部で大量の貧困人口を抱えている一方、貧富の格差も拡大し続けている。国の統計数字が示す都市・農村部の収入格差は3.2倍だが、統計調査には都市部住民の公費による医療費は含まれておらず、また養老や住宅、教育などの福祉や手当てを統計に組み入れて金額に換算すれば、その格差は更に拡大する。 

国家統計局の統計によると、2003年の1人平均GDPは1090ドルに達した。経済学上、発展途上国が1000ドルの大台を突破すると利益の分化、ひいては利益を巡る摩擦が生じると言われている。

政府はこうした問題を重要視すると共に、いくらかゆとりのある社会を建設する目標を実現するため、問題の解決に乗り出す決心を表明。執政政党である共産党は過去84年に及ぶ発展史の過程でこれまで何度も、重要な時期に遭遇した場合に自らの失策と過誤を是正してきた。

中国社会科学院は2004年12月13日、より幸福かつ公正で、調和の取れた節減型の活力溢れる全面的にいくらかゆとりのある社会を構築する、との総合目標を掲げた『2005年社会白書』を発表した。2カ月後、約200名の党・政府、軍の高官が北京で開かれた「調和の取れた社会の構築」をメインテーマにしたシンポジウムに参加し、胡錦濤総書記が各クラスの党・政府高官に対し、社会主義の調和の取れた社会を構築するため力を尽くし、具体的な作業を着実に進めていくよう呼び掛けた。

実際的な目標

温総理は任期内に「調和の取れた社会」という理念を円滑に具体化していくとの姿勢を示した。山西省の全人代代表・段志愛氏は温総理が行った政府活動報告を「庶民の視点に溢れている」と評価する。

これこそが温総理の一貫した姿勢であり、内外のメディアが一致して表現した「平民総理」にふさわしいものだ。過去2年間、温総理は恐れることなくSARS患者の入院病棟を視察したり、地震後の救援活動の指揮を取ったりしたほか、新年の夜には炭坑を訪れて労働者を慰問、貧しいエイズ患者と春節を共に過ごしたりもした。

温総理は2005年のGDP成長率の当初目標について、控えめに8%と設定。前年の9.5%に比べ1.5ポイント下回る。同時に各地方に対しては、盲目的に経済成長率を高めることのないよう求めた。住民を優遇する若干の具体策も提起したが、これらは社会の弱者に対してものだ。

また歳出を140億元増やして、9億の農民の農業税徴収を免除するほか、2005年から貧困撲滅開発重点県の農村部で、義務教育段階にある貧困家庭の生徒を対象に教科書代と雑費を免除すると共に、寄宿舎での生活費を補助することを表明した。こうした政策は、2007年までに全国の農村で実施される予定だ。教育部の統計によると、この政策で約3000万人の生徒が恩恵を受けるという。

温総理は「経済社会の発展に向けて長期的な問題の1つとなっている、就業問題の深刻さを受け止める」と強調した上で、「積極的な就業政策を引き続き実行して今年、都市部で新たに900万人の雇用を創出し、失業率を4.6%に抑える。前年に比べ26億元多い109億元を歳出して、レイオフされた従業員の再就職に振り向ける」との方針を示した。また温総理は各地方政府・機関に対し、再就職を支援する様々な政策・措置を真摯かつ着実に実施すると共に、実施範囲をグループ企業まで拡大するよう求めた。

今期政府が格別関心を寄せている対象が、鉱山労働者だ。2004年下半期以降、炭坑とくに国有炭坑で大規模な事故が頻発している。昨年10月と11月、今年2月に河南省の鄭州大平炭坑、陝西省の銅川陳家山炭坑、遼寧章の阜新孫家湾炭坑で相次いで大規模ガス爆発事故が発生。それぞれ148人、166人、214人が犠牲となった。国家安全生産監督管理総局の統計では、2004年に発生した炭坑死亡事故は3639件、死者6027人に上る。

温総理は政府活動報告の中で、「安全な生産活動を強化して、重大な大規模事故の発生を防止し減少させることを、政府が社会の安定を維持し、社会主義の調和の取れた社会の構築に努めるための任務とする」と強調すると共に、炭坑の生産条件を改善するため、2005年に国有炭坑の安全に向けた技術改造に30億元を歳出することを確約した。

資金援助のほか、温総理は更に「調和の取れた社会」のその他の面についても言及すると共に、この1年間に様々な方策を講じて、社会の弱者に対しきめ細かな支援を行っていく姿勢を示した。また条件のある地方政府に対し、(1)医療サービス料金の徴収と薬品の仕入れ・販売の秩序を全面的に整備・適正化して、大衆の診療難、高医療費の問題を適切に解決する(2)予防・治療・支援措置を真摯かつ着実に実施して、エイズの蔓延を徹底的に抑制する(3)個人所得税制度の完備に取り組むと共に、収入の分配調整を強化して分配関係を徐々に円滑にし、一部の過大な収入格差の問題の解決に努めて、社会の公平を促進する――などの具体的措置を列挙し、農民の最低生活保障制度の確立を模索するよう求めた。

また温総理は「民間資本が参入する業種と分野を一段と緩和し、民間企業への融資ルートを拡大すると共に、資本市場の発展を健全化させる各種の制度を確立して、投資家とくに一般投資家の利益を保護する」との方針を表明した。