2005 No.13
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老字号は文化財と同様に扱うべきだ

――「老字号」(老舗)は決して「時代遅れ」を意味する代名詞ではない。市場経済が主流になった今日、老字号も当然、市場ルールの試練を主動的に受け入れるべきだ。

馮建華

2月28日、150年の歴史を擁する著名な老字号、天津狗不理包子(パオズ)飲食(集団)公司は企業の命運を決める重大な日を迎えた。その国有資産が公開競争方式で譲渡され、参入する民間資本が7割以上の株式を握ることになったからだ。

この数年来、「老字号を救済しよう」がメディアや社会の関心を寄せる問題となっている。こうした中、「狗不理」競売のニュースはいささか“悲劇的”色彩を帯び、その命運に人々は多少なりとも憂慮の念を示した。

統計によると、新中国建国初期の老字号企業数は全国で1万社余り。1978年までに国が認定した老字号は、主に医薬や飲食、食品等の業種を中心に約2000社に達した。だが現在、全国にある70%余りの老字号は既に“休眠状態”にあり、残る200社近くの企業のうち、好業績は20%未満、相当の収益を計上している企業は極めて少数だ。

狗不理は1858年の創業。1992年に天津狗不理包子飲食(集団)公司を設立した。数回にわたる再編で、同公司は現在、傘下に狗不理本店を含め国有法人全額出資企業5社、国有法人持ち株企業2社、国有法人株式取得企業1社を擁している。本業のパオズ以外に、狗不理銘柄の白酒(パイジウ)やビール、ミネラルウォーター、月餅などの商品を開発してきた。北京や上海、広東省・深セン、山西省など全国に80店舗の支店を展開しており、経営状況は良好だ。また外国にも進出。シドニーに開設したレストランは業績好調で、今後は北米市場の開拓に乗り出そうとしている。

では今、国有資産を競売するのは何故なのか。同公司の趙嘉祥会長は「増資方法によって社会の資金を吸収することで、優良かつ発展が持続可能な企業に成長させ、老字号としての企業文化を発揚したいと考えたからだ」と説明する。

「老字号は危険信号ではなく、有名銘柄もまた万能な銘柄ではない。絶えず刷新して、新たな市場を開拓していかねばならない」。こうした経営理念の下、趙会長は「新たなメカニズムの注入が必要であり、具体的に言えば、社会の企業法人と企業内部の職員が共同出資する、現代的な企業制度に合致したグループ企業を設立することで、最終的に『狗不理』という銘柄を大々的に発展させていく目的を達成したい」と強調。

だが取材の過程で、同公司の内情に精通する業界関係者は記者に対し、こうした方針をに転ずることになったのは、市場化の推進という要素はあるものの、同公司が抱える巨額の債務が直接的な原因だと指摘した。

関係者によれば、約4、5年前、同公司は地元政府から大型ビルを“引き継ぐ”ことになり、同ビルをレストランに改修しようとした。ところが、老朽化のため補修に1億元以上費やすることになった。規模拡大中の同公司はこれでつまずき、流動資金の調達に行き詰まったという。

天津市和平区経済貿易委員会によると、同公司の総資産額は1兆1746億4100万元、総負債額は8049億6300億元で、純資産額は3606億7800元。趙会長は、2004年の収益は過去最高を記録したと話す。直営店の営業収入は7500万元、チェーン店を含め合計2億1000万元と、前年比で41.7%の増である。この数字から見れば、資金面で大きな危機に直面することはないはずだ。

その実態を知ろうと、記者は何度も趙会長の携帯に電話を入れたが、常にオフ状態。同公司本部に電話すると、応答者はあれこれ言い逃れたり、ぐだぐだと説明したりするばかり。

実際、狗不理集団が国有資産を競売に掛ける真の動機がどうであれ、確かなのは、主動的に市場に適応していくとの同集団の姿勢は肯定するに値する、ということだ。市場という大きなうねりを受ける中、老字号企業も自らの殻に閉じこもってばかりはいられない。だが、生き残りをかけた道を模索しようとする老字号は実際、極めて少数に過ぎない。益々多くの企業が市場という大きなうねりにもまれて前進していく力を失い、徐々に“没落”の一途をたどっており、今や自然消滅の状態に置かれている。例えば、1651年創業の北京の「王麻子」ハサミ工場は既に破産を申請。かつて市場で50%以上のシェアを占めたことがある企業だ。

だが、喜ぶべきこともある。メディアが報道を続けてきた結果、各地方政府が老字号を巡る問題に関心を寄せるようになった。この問題で核心として主に2点挙げられる。まず第1は、老字号をいかに扱うべきか。第2は、老字号をいかに保護するかだ。こうした問題について記者は2月24日、世界中国調理連合会常務理事で、国際飲食文化研究会副会長も務める林則普氏に単独インタビューした。

今年74歳になる林氏は、1986年に前商業部飲食服務局局長に就任。職務上、飲食業界の老字号と接触する機会は多い。取材を通して最も印象深かったのは、老字号が直面する問題に言及した際、しばしば激高する場面があったが、その度に手を空に動かし、ある時は興奮気味に突然、席から立ち上がって自身の気持ちを落ち着かせようとしたことだった。

以下、林氏とのインタビュー内容を紹介する。

記者 老字号の問題に関心を寄せられたのは、いつごろからですか?

林氏 正確に言えば、1999年からでしょうね。その年、国内6大古都(杭州・南京・開封・洛陽・北京・西安)が、杭州の老字号「楼外楼」飯店で「第1回老字号飲食文化シンポジウム」を開いたのです。議論の主たる内容は、老字号の経営上の問題でした。

その年にかけて、多くの老字号が体制改革の中、現地政府の負担になることを理由に簡単に私営企業に売り渡されるか、または閉鎖されてしまい、多くの老字号が姿を消してしまったのです。例えば当時、武漢の『大中華』飯店は全国的に名の知れた国有の老字号で、1年に少なくとも200万から300万元の利益を上げていました。しかし、1999年前後に民間に売られると、間もなく経営につまずき、倒産してしまったのです。 

聞くにつけ、見るにつけ、老字号を巡る現状には非常に憂慮しています。いろいろと考えた末、1999年に『老字号の文化思考』をしたためました。「老字号」、というのは再生不可能なもので、文化財と同様に扱うべきであり、決して自然消滅させてはならない、というのが基本的な観点になっています。

記者 老字号も「市場」という「障害」を経なければならない、ということですか?

林氏 老字号が百年たっても衰退しなかったのは、程度の差こそあれ、絶えず新しさを求めてきたことの結果でもあるのです。新しい要素を与えることがなかったのなら、時の移ろいのままに変化して、老字号は今日まで辿りつくことはできなかったでしょう。こうした意味から言えば、老字号は決して「時代遅れ」を意味する代名詞ではありません。市場経済が主流になった今日、老字号も当然、市場ルールの試練を主動的に受け入れるべきでしょう。

記者 老字号の保護には、特別有効な方法があるのでしょうか。

林氏 保護する方法は多種多様です。その継承と発展に役立つのであれば、どんな方法であれ講じることができます。老字号の活路は、新しさを求めて変化を図ることにあるのです。老字号を保護することは、単に政府からお金を求めるだけを意味している訳ではありません。実際、老字号は一種の資源であり、地方政府もそれを負担と見なす必要は全くないのです。

広州人民政府は2001年に、老字号を保護する通知を公布しました。老字号が企業体制を改める場合、国有資産管理機関はその著名な企業名と生産技術、銘柄といった無形資産を知的財産権と資産の評価範囲に組み入れる、というのが主要な内容になっています。企業が破産や倒産、合併した場合には、老字号の名称を消滅させてはならず、政府の関係機関が指導し、その機関を主管する部門が管轄する中で入札や一定期間の貸与、企業再編等の方式で老字号を延命させていかなければならない、としています。

これは遠見ある措置であり、過去見られなかった措置でもあり、老字号をいかに保護するかにとっては非常に参考となるもので、またモデル的価値を有していると言えるでしょう。北京の「潭府」料理について言えば、早くに姿を消してしまいましたが、その技芸を継ぐ職人が北京飯店で復活させたことで、その料理を味わえることができるようになりました。潭府料理が内包する文化そのものが廃れることにでもなれば、まさに歴史的に大きな損失になったことでしょう。

ただ残念なのは、この復活のニュースが実生活の中で期待するほどの役割を果たさず、社会的にも反響が小さかったことです。

記者 老字号の保護に当たり、政府が最優先すべきことは何でしょうか。

林氏 現在、政府が最優先すべきことは、経営が困難にある企業の体制改革を実行して、その出口を模索していくことです。政府がなすべきは、完全に市場に委ねて企業自らが発展していくようにし、経営状態の良好な老字号に対しては、融資ルートを拡大すると同時に、法的な手段を用いて市場経済秩序を適正化して、偽物や劣悪な商品に対する取り締まりを強化していくことが求められています。