2005 No.16
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共通の利益を模索するアジア

――博鰲(ボアオ)アジアフォーラムの年次総会は、アジアの新たな役割を積極的に模索することになるだろう。

陸建人

(中国社会科学院アジア太平洋研究所研究員)

アジアおよび世界の一部首脳と1000人を超える各国の政財界関係者、学者、著名人が一堂に会する「2005年博鰲アジアフォーラム」の年次総会が4月22日から24日まで海南省の博鰲で開かれる。今回の総会は、アジアの世界における新たな役割を共に模索することになるだろう。

総会のテーマは「共通の利益―アジアの新たな役割を模索する」。大津波発生後のアジアの経済情勢も関心を集める問題となるだろう。

大津波はアジア経済に打撃を与えなかった

2004年12月26日、アジアは空前の災禍に見舞われた。インド洋で発生した大津波で沿岸のインドネシアやタイ、インド、スリランカ、モルジブなど11カ国で犠牲者・行方不明者は約30万人に上り、150万人が家を失った。こうした大規模な天災は多くの国々に程度の差こそあれ経済的損失をもたらしたが、アジア経済に大きなダメージは生じなかった。

国際社会の惜しみない迅速な救援活動と被災国の努力によって、大津波がこれらの国々の経済に与えたマイナス影響は徐々に解消されつつある。僅か3カ月余りで、東南アジアと南アジアの観光業は活気を取り戻し、甚大な被害を受けたタイ・プーケットでも外国人観光客が急速に増大するなど再び賑わいを見せている。

大津波で沿岸国に相当数の死傷者が出たが、工業や基盤施設の破壊はそれほど深刻ではなかった。観光業と漁業に依存するモルジブやスリランカを除き、その他の被災国では経済への影響はそう大きくはない。最大の被害を出したインドネシアのヤチェ州では、原油ボーリングや鉱業生産施設はほぼ損壊をまぬがれた。インド南部工業地帯の港湾も被害を受けたが、復旧活動が急速に進んでいる。こうした国々の生産と貿易も以前と変わりはない。アジア開発銀行は、大津波によるインドの今年と来年の経済成長への影響はほとんどない、と予測している。タイ政府は今年の経済成長率予測を5.7%と、大津波発生前に比べ0.3ポイント下方修正しただけだ。

国際社会からの被災国への義援金は30億ドルを突破。被災国政府も現地の経済再建のため資金を拠出しており、こうした資金が経済成長を牽引する役割を果たしている。また世界の主要債権国は人道主義的配慮から、インドネシアとタイ、インド、スリランカ、モルジブの総額数十億ドルにのぼる満期債務を凍結したほか、一部の債務を減免。こうした措置も被災国の経済再建の原動力となっている。

大津波と巨大地震はアジア経済に打撃を与えることはなかった。アジアは依然として世界で経済成長が最速の地域である。特に2004年、世界経済が力強い勢いを見せる中、アジアはこの20年以来最高の経済成長率を実現。日本を除くアジア開発銀行の42の加盟国の平均経済成長率は実質7.2%に達した。

2005年は世界経済の成長が減速するため、アジア経済も成長率は低下するだろう。だがアジア開発銀行の予測によると、アジア地域内では貿易は引き続き拡大し、輸出も好調を持続し、個人消費は増大し、企業の設備投資も回復するなどの要素から、アジア全体の経済情勢には依然として期待感があり、経済成長率は通年で6%以上に達すると見込まれる。

「竜と象」がアジアの役割を変えつつある

アジアは悠久の歴史と燦然と輝く文化を有している。東アジの黄河流域、南アジアのインダス川流域、西アジアのユーフラテス川とチグリス川流域は世界で最も著名な人類文明の発祥地。16世紀以前、アジアの文化と社会・経済の発展水準は世界のトップクラスにあった。アジア諸国の農業や手工業、水利工事、医学、数学、天文学、文学・芸術は世界史で輝かし地位を占めたこともある。

16世紀以降、西側の殖民主義者はアジアに侵入、欧州の列強はアジアの富みを略奪し始めた。18世紀後半、アジアは西側列強を中心とする世界の枠組みの東端に組み込まれ、原料供給地と工業製品のダンピング市場の役割を担うことになる。1940年代、日本を除くアジアのほとんどの国が植民地か半植民地かされ、直接占領された面積はアジア全体の3分の2に上った。3世紀近くにわたる殖民地支配により、アジアは深刻な貧困状態に置かれるが、50年代に入り、第二次世界大戦の終結に伴って、ほとんどの国がようやく独立を果たす。

60年代、日本が戦後の廃墟から立ち上がり復興をとげたことで、アジア経済が飛躍する序幕が開かれた。70年代に入ると、韓国とシンガポール、台湾、香港は、国際産業構造の調整の機をとらえて高度経済成長を実現し、アジアの「4つの小さな竜」と呼ばれるようになった。80年には南アジアのタイやマレーシア、フィリピン、インドネシアが東アジアに次いで工業化を推進し、経済は急成長していく。東アジアはアジア地域で先に著しい経済繁栄を実現し、「東アジアの奇跡」を成しとげたと言われている。

90年代、改革・開放を実施した中国がそれに次いで先行者を追い越し、持続的高度成長という新たなアジアの奇跡をとげた。中国経済の発展がアジアと世界に与える影響は、日本や4つの小さな竜と東南アジアをはるかに上回るものだ。現在、中国経済は依然として経済成長を持続しており、これによりアジアの地位はより強固なものとなり、アジア全体の地位も向上するだろう。新任のライス米国務長官は先ごろアジアを訪問した際、印象に残る発言をした。「アジアに何か新たな変化があるかと言えば、それは中国経済の急速な発展だ」。ライス長官はインドに向かう機内でこうも語っている。「日進月歩するアジアで、中国が主要な要素、恐らく最も主要な要素であるのは間違いない」。ライス長官の眼には、中国の発展こそがアジアの「日進月歩」の象徴であると映ったのだろう。

21世紀に入り、アジアの地位は、中国という竜の舞いながらの上昇によるだけではなく、インドという象の登場によって世界から注目を集めている。

インド、この世界第2の人口大国は今日、アジアの経済地図では中国と並ぶもう1つの輝ける点だ。1991年に経済改革に着手して以降、インドの年平均経済成長率は6%近くに達している。経済の安定した発展に伴い、インドの国力は著しく増強された。ソフトウエアでは世界のトップクラスにあり、製薬業も発達し、しかも核兵器や中距離弾道ミサイル、人工衛星、航空母艦も保有している。インドには大国として天性の条件がある。人口は約11億で世界第2位、陸地面積では世界第7位、インド洋沿岸の戦略的に非常に重要な位置を占めている。インドが期待するのは南アジアの地域的な大国ではなく、一貫して夢想しているのは世界の強国になることだ。現在の世界の戦略的枠組みの中で、米国や欧州、ロシア、日本、アジアがインドとの関係の発展を競い合うなど、インドは有利な地位にある。特に9.11事件後、米国の国際戦略におけるインドの地位は一段と際立ってきた。インドは西アジアのイスラム原理主義を抑制し、その浸透を防止する上で重要な前線に位置している。ライス国務長官が就任後初のアジア歴訪でインドを最初の訪問国にしたところに、米国のインド重視の姿勢が見られる。米国にとっては、インドは武器と商品ダンピングの重要な市場であるのみならず、ロシアと中国を牽制するための重要な道具でもある。ライス長官の訪問後、米国政府は直ちにインドが「21世紀の世界の主要な強国」になることを支援する一連の計画を制定。一方のインドも、米国の威を借りて自らの国際的地位を高めることには長けている。だが、いかに見るにしろ、インドの世界の舞台における影響力が増強したことで、南アジアの国際的地位は高まり、アジアの地位も高まった。

まずは中国竜、それに次ぐインド象、このアジアの2大国の急成長が現在、アジアの役割を変え、アジアの世界での地位も変えつつある。

第1に、中国とインドの2大国が発展していかなければ、アジアの近代化は空言となり、アジアの遅れた地位を変えるのは難しいということだ。

これまで、アジアでは先進国は日本だけだった。経済の近代化を実現した国も、東アジアの韓国にシンガポールなど少数の国・地域にすぎない。アジアの2つの巨人、中印の人口総計はアジアの3分の2を占めている。この両大国が経済の近代化を実現しなければ、どうしてアジアの近代化など語れるだろうか。逆に、実現すれば、周辺の発展途上国の近代化は大きく促進されるだろう。中国であれインドであれ、いずれも超大規模な市場を抱えており、周辺地域の経済成長を牽引していく能力を備えている。中国の輸出入額は現在、世界第3位にランクされ、中国の旺盛な需要が東アジアとアジアの経済成長を促している、というのがその有力な証左でもある。同様に、インドの需要増大も南アジアとその他のアジア諸国の経済成長を牽引していくだろう。中印の経済が近代化されなければ、真の意味でのアジアの近代化はあり得ない、というのは間違いない。

次に、中印が発展しなければ、経済のグローバル化も空言になるということだ。経済のグローバル化と、発展途上国の経済の近代化とは緊密に関係している。後者がなければ、前者は進展していかない。中印は世界最大の発展途上国であり、両国の国内総生産(GDP)は現在、それぞれ全世界の4%と2%を占めるが、人口総計では世界の40%近くを占めている。中国であれ、またインドであれ、両大国のいずれか一方が近代化を実現できないとすれば、経済グローバル化のチェーンは破断され、グローバル化のプロセスも付随して中断されることになる。逆に、中印が早期に近代化を実現すれば、経済のグローバル化は大いに加速され、グローバル経済は真の意味で持続的な繁栄を迎えるだろう。

第3は、中印の発展がアジアの世界経済における発言権を強め、アジアの世界経済の枠組みの中における地位をも向上させるということだ。昨年12月、米国家情報委員会は、中印両国の21世紀初頭における勃興を、ドイツの19世紀の勃興と米国の20世紀の勃興と比較して「同様に巨大な影響をもたらす可能性がある」と報告書をまとめた。筆者は、中印の発展はドイツや米国のそれを上回る影響を与えるのではないか、と考える。両国の勃興はそれぞれ2つの世紀(19・20世紀)と2つの地域(欧州と米州)に分かれるものであり、一方、中印の勃興は、同一時期(21世紀)と同一地域(アジア)、24億近い人口を擁して隣接する1257平方キロメートルの国土においてのものであり、従って両大国の「総合力」がアジアと世界におよぼす影響がより集約され、より増強されるのは必然である。この意味で、21世紀は「アジアの世紀」になると言えるのではないだろうか。

アジアは日本を除き、世界の分業と経済のグローバル化の枠組みの中では不利な地位に置かれている。アジアは依然として原料の供給地であり、また製品の加工地であり、労働集約型製品と低付加価値製品のための世界の主要な工場となっている。アジアの発展途上国は知的財産権や技術革新の面で他国に制限され、世界経済のルールづくりでもほとんど発言権を持たないままだ。だが、こうした状況は早晩、中印が発展していくにつれ変化していくだろう。中印両国はいずれも古代文明が栄えた国であり、その底辺にある文化的要素は極めて深遠で、国民は勤勉で聡明、知恵に富んでいる。両国は科学技術者の数で世界のトップにあり、技術革新に向けた潜在力も大きく、いつまでも「世界の工場」という単純な役割を演ずることはない。中印両国は産業構造の調整に伴い、ハイテクや知識集約型産業が徐々に発展していき、西側先進国と競争を展開していくだろう。中印を含めアジアは今後、自らの知的財産権と独自の研究開発システム、生産拠点を所有していくだろう。そうなった時、中印両国が世界経済のルールづくりにおいて、共通の言葉でメッセージを発すれば、それこそが世界最強のメッセージとなり、アジアは先行者を追い越し、世界経済の舞台において、斬新でかつ軽視されることのない役割を演じることになる。