2005 No.17
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ライス国務長官のアジア歴訪

ライス米国務長官は先ごろ、アジア六カ国に対し外交攻勢を展開した。最終訪問地となった北京は、今回の歴訪で最も微妙な訪問先であったかも知れない。アメリカ政界で「アイロン・レディー」と呼ばれるライス氏は協力と支持を呼びかける一方、中国の「反国家分裂法」と朝鮮半島の核問題についても異なる考えを忌憚なく表明した。今回の歴訪は、ライス氏が米国の今後の対アジア戦略を構築するための瀬踏みだとの声も聞かれる。

丁志涛

ライス国務長官の就任後初めての東アジアと南アジア訪問は注目を集め、3月14日から21日にかけてインド、パキスタン、アフガニスタン、日本、韓国、中国の六カ国を矢継ぎばやに歴訪した。

アメリカ外交官のトップであるライス氏は八日間のアジア歴訪で巧みな外交手腕を見せ、六カ国との協力を維持したいとの米国政府の意向を伝えたと見られている。ライス氏は日本と韓国には同盟関係を強調し、米日関係は最良の時期にあると評価したほか、インドとパキスタンとの関係を称賛するとともに、アフガニスタンへの復興やテロ、麻薬対策などの面でも協力すると確約した。また北京会談では、米国政府は米中両国の建設的な協力関係を非常に重視し、「一つの中国」政策の支持と台湾問題の平和的解決を堅持すると重ねて言明するとともに、中国が六者協議の開催で果たしてきた役割を高く評価した。さらにライス氏は中国とのハイレベルな接触の流れを保持し、相互尊重の原則にのっとって相違点を解決していきたいとの政府の意向を明らかにした。

米議会上院公聴会でパウエル国務長官の後任に正式指名された1月18日、ライス氏は「今は外交の時だ」と公約し、その後、就任以来ライス外交の幕開けとなった欧州・中東歴訪に次ぎ、アジアに対しても外交攻勢に出た。

ライス氏の今回のアジア歴訪の目的も、ブッシュ大統領の欧州歴訪と同様、大統領のアジア訪問に向け布石を打つことにあった。ブッシュ大統領は10月にインドを訪問すると報道されている。またライス長官は北京で、胡錦涛国家主席が今年後半にも米国を訪問することを示唆した。

アジアが米国の戦略的重点の一つであることが、この時期にライス氏がアジアを歴訪したことで裏付けられたと見られている。米国の世界戦略におけるアジアの地位はますます重要さを増している。一方、米国はこれまでアジア太平洋地域における軍事配置と調整を停止したことはない。ライス氏は国務長官就任以来、アジア問題で忙殺されてきた。2月19日にはワシントンでラムズフェルト米国防長官、日本の町村信孝外相、大野功統防衛庁長官と日米安全保障協議委員会(2+2)に臨み、安全と同盟について協議した。中日韓3カ国の外相との間では、朝鮮半島の核問題について対話を進めている。

ホワイトハウス入りする前のライス氏はロシア問題の専門家で、アジア問題についての研究は多くはなかったと見られている。しかも第一期ブッシュ政権においては、大統領の国家安全保障担当補佐官として、ライス氏の関心は国家安全や大国間関係、中東問題に主に向けられ、アジア問題への関心は低かったとの見方が多い。これについて、中国現代国際関係研究院の米国問題専門家・袁鵬氏は「ライス氏は国務長官になる以前、明晰な『アジア観』は持っていなかった。新国務長官としては先ず、できるだけ早く関心を安全分野から外交分野へ、中東地域から国際問題へ転換させ、とくにアジア地域を最重点に取り組む必要がある。今回のアジア歴訪はライス氏にとって『アジア認識の旅』でもあれば、米国の『アジア観』を再構築する起点でもあり、米国の今後の対アジア政策に大きな影響をもたらすだろう」と分析している。

ライス氏は1月18日の議会上院公聴会で、「全てのアジア諸国とは友好関係を維持できないとの誤った仮説は、われわれによって打破された。アジア諸国との同盟関係がこれほど強固だったことはなく、これを機にアジア地域の平和と繁栄を維持していく」との考えを示した。

アジア地域の平和と安定を維持する目的達成について、袁鵬氏は「ライス氏は米国の対アジア戦略を明確にさせる必要がある」と指摘した上で、具体的に(1)アジア地域の安定維持は政策の基軸であり、最も重要な課題である(2)日韓など同盟国との同盟関係の強調が対アジア政策の柱である(3)中国との建設的な協力関係を引き続き実施する――の3点を挙げた。さらに袁鵬氏は「ライス氏の対アジア戦略は第二期ブッシュ米政権のアジア政策に大きな影響を及ぼすだろう」と強調している。

米国の対アジア戦略の主要な変化はインドと関係がある。ニューデリーはライス氏のアジア歴訪最初の訪問地となり、ラムズフェルト米国防長官に次ぎ、3カ月以内に米国政府の重要な閣僚が二人訪れている。中国人民大学の金燦栄教授は「米印関係を非常に重視しているのが、今回のライス氏のアジア歴訪の顕著な特徴だ。今世紀に入り、米国はインドの戦略的地位をますます重視するようになってきた」と指摘している。ブッシュ政権が2002年9月に発表し論議を呼んだ白書『米国の国家安全保障戦略』に、初めてインドが大国として盛り込まれた。昨年末、インドを訪問したラムズフェルト国防長官はシンハ外相と両国の軍事協力の強化について協議した。ライス氏は今回の訪印中、インドは米国が関心を寄せるに値すると述べるとともに、インドが地域の安定に果たしている重要な役割を評価した。また両国関係や地域情勢、米軍のF-16戦闘機の売却やイランと結ぶ石油パイプラインの問題などについても意見交換を行った。

ライス氏のアジア歴訪では、伝統的な同盟国である日本と韓国は最も重要な地位に置かれることはなかったが、米日関係と米韓関係の緊密化に影響を及ぼすことはなかった。訪日中、米国産牛肉の輸入禁止をめぐり摩擦があるにもかかわらず、ライス氏は日本の国連安保理常任理事国入りを支持すると明確に表明した。常任理事国入りを目指してきた日本にとって、ライス氏のこの態度表明は古い盟友の「忠誠への賞与」と見られている。

ライス氏が韓国を訪問した際にはちょうど米韓合同軍事演習が行われており、約6000名の在韓米軍を含む1万7000名の米軍人が参加したという。ライス氏は盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領、潘基文(バンギムン)外交通商相と朝鮮半島の核危機について会談を行ったが、むしろこの合同演習のほうが米韓関係の緊密の度合いを裏付けている。

朝鮮半島の核問題はライス氏のアジア歴訪の焦点だったが、膠着状態は打開されず大きな進展は見られなかった。この問題についてライス氏は歴訪中、ブッシュ政権に朝鮮を攻撃する意思はないと強調し、さらに協議で朝鮮半島の核問題を解決する、もし朝鮮が「戦略的選択」をして核計画を放棄するなら、安全を保証する書面に署名するとともに、六者協議の枠組みの下で米朝対話を行う意思があると繰り返し表明してきた。「六者協議をわれわれは認めている。何故なら、これが問題を解決する最良の方法だと確信しているからだ」。北京を発つ前の記者会見でライス氏はこう述べた。

朝鮮半島非核化の目標を実現するため、主催国の中国は2003年以来、米国と朝鮮、韓国、日本、ロシアとともに六者協議を三回開いてきたが、昨年9月に予定されていた第四回会議はいまだに実現されていない。2月10日、朝鮮は核兵器を製造したと公式に表明すると同時に、六者協議の無期限停止を言明した。ライス氏はこれを「圧政の先陣」と呼び、朝鮮はこれに強い不満を示し、発言に対し謝罪を求めた。

ライス氏は今回の歴訪で「圧政の先陣」という言葉を使用することはなく、また自らの発言について謝罪することもなかった。ライス氏は、六者協議は核問題解決の上で最良の方法であり、この枠組みを堅持していくと明言した上で、朝鮮に協議のテーブルに戻るよう呼びかけた。

しかし、歴訪を終える直前になってライス氏は強硬姿勢を見せ始め、3月21日の北京での記者会見では、朝鮮半島の核問題の解決には別の選択肢もあるとの考えを示した。アナリストは、別の方法とは恐らく、この問題を国連安保理に付託して朝鮮に制裁を加えることではないかと見ている。ライス氏は中国が六者協議の再開に向けより大きな役割を果たすことに期待を示したが、自らの立場については何ら新たな情報は提供しなかった。

中国社会科学院米国研究所の顧国良氏は「朝鮮半島の核問題でライス氏が示した硬軟両方の姿勢はまさに、米国政府の『二重戦術』の表れであり、新任の国務長官もこの戦術を使う術を心得ている」と指摘している。

中国が最終訪問地であったことから、中米両国の交渉こそがライス氏のアジア歴訪のハイライトだったとの見方が強い。中国に関する話題は出発前にまた歴訪途中でも数多く取り上げられていたからだ。

3月13日、ライス氏は米NBCテレビとのインタビューで、世界において中国の影響力はますます強まっているとの考えを示し、「対中政策を通じて中国を破壊的な力ではなく、積極的で建設的な力にする必要がある」と述べた。また「反国家分裂法」の採択については台湾海峡の緊張を高めるとも述べた。15日、訪問中のニューデリーでは、米国政府は中国との対立は望んでいないとの姿勢を示したほか、「反国家分裂法」の採択やEUの対中武器禁輸解除、中国の軍事費増大などの問題についても見解を明らかにした。

北京会談では、ライス氏は「中米関係は史上最良時期にある」というパウエル前国務長官の言葉を繰り返すとともに、「自信のある平和で繁栄した中国が米国のパートナーとなることを望んでいる」と述べた。もちろん、多くの問題で異なる考えを明らかにしたものの、総じて言えばライス氏の姿勢は積極的的なものだったと言えよう。

今回、中国の「反国家分裂法」の採択が中米間の最も大きな相違点となった。この法律は3月14日、第10回全国人民代表大会第3回会議で圧倒的多数で採択された。その条項によれば、「台湾独立」を掲げる分裂勢力がいかなる名目、いかなる形であれ台湾を中国から分裂させる事実を引き起こした場合、または台湾を中国から分裂させる重大な事変が発生した場合、または平和統一の可能性が完全に失われた場合は、国家は非平和的手段及びその他の必要な措置を講じ、国家主権と領土保全を擁護しなければならない、というものだ。中国の立法関係者は、この法律は「台湾独立」勢力にはっきりとしたシグナルを伝えるものであり、大陸と台湾の平和統一を実現するための有力な保障となるものだと考えている。

ライス氏は「反国家分裂法」について、「発展傾向として歓迎できるものではない。台湾海峡の緊張を増幅するものは何であれ、好ましい事ではないからだ」との認識を示した。一方、温家宝総理は「台湾独立」勢力を抑制するのが立法の目的であり、海峡両岸の安定と発展にプラスとなると説明した上で、米国に対し中国が同法を制定したことを理解、尊重、支持するよう期待を示した。

これについて中国社会科学院米国研究所の陶文サ研究員は「『反国家分裂法』についての米国の非難は一種の政府の反応に過ぎず、しかも相対的に穏やかな反応だった。実際に強い調子で反対するのであれば、ライス氏は訪中しなかっただろうし、たとえ訪れるにしても延期していたであろう。ライス氏の歴訪そのものは実は、米国がすでに「反国家分裂法」の採択を認めていたことを裏付けるものだ」と分析している。