2005 No.17
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世界の主導的地位を回復

――アナン事務総長、国連改革案を公表

倪延碩

国連は今、その創設60年以来最大規模の改革計画を進めようとしている。アナン事務総長は3月21日、国連総会に「より大きな自由を求めて――全ての人々が安全と発展、人権を共有するために闘う」と題する包括的な報告書を提出し、人権や発展、反テロ、組織改革などを含む改革案を提示した。アナン事務総長は改革に大なたを振うことで、イラク戦争や「石油・食料交換計画」をめぐる不正疑惑、在コンゴ国連平和維持部隊の性的暴力事件によって地に墜ちた国連の名誉と社会的信用を回復することに期待を示している。

アナン事務総長は総会で、国連改革の報告書について詳述するとともに、各国に対し報告書にある人権や発展などに関する改革案を一括して受け入れるよう呼びかけた。そして「互いの関係が増しつつある世界において、発展と安全、人権分野での進展は歩調を合わせて取り組んでいかなくてはならない。安全でなければ、発展はしない。発展しなければ、安全はない。安全と発展はいずれも人権と法治を尊重することによって決まる」と強調した。

●改革の道

中国外交学院で国連問題を専門にする鄭啓栄・院長補佐によると、この報告書は国連創設以来、内容の最も幅広いもので、昨年12月に高級諮問委員会がまとめた報告を踏まえて何度も修正されたという。

アナン氏は国連事務総長に就任後、一貫して国連改革に尽力してきた。1997年に就任するや、国連の各部門と基金を平和と安全、経済と社会、人道主義、発展の4分野に集約。その後、国連の組織改革については、肥大化した組織を簡素化することで重複機能を減らす、職員という最重要資産の価値を高める、の2つの面から実施することを提起した。しかし、多くの問題で関係方面に意見の相異があったため、改革にはまだ実質的な進展は見られない。

2000年に画期的な意義のあるミレニアムサミットが開催された。出席した国家元首と政府首脳は過去最多となり、新世紀に実現する一連の目標と指標を明確に打ち出した国連史上初の「ミレニアム宣言」を採択した。

国連安全保障理事会(安保理)は国際問題で特別な地位にあることから、国連の改革では一貫して最重点事項に置かれてきた。歴史的要因から、安保理では中国と英国、フランス、ロシア、米国の5カ国が拒否権を持つ常任理事国となっている。アジアでは1カ国、北米も1カ国、欧州が3カ国と、地理的にアンバランスであり、発展に向けた支援が急がれているアフリカは議席を有していない。専門家は「地理的バランスを取るための常任理事国の拡大が改革の重点となる」と指摘する。

国連は昨年、改革に向け重要なステップを踏み出した。アナン事務総長は2004年11月、銭其?元中国副総理を含む16人で構成される高級諮問委員会を発足させた。

同委員会は安保理改革に関し2つの案を提言した。第1案は、拒否権を持たない常任理事国を6議席、非常任理事国を3議席ずつ増やし、常任理事国についてはアフリカとアジア太平洋地域にそれぞれ2議席ずつ、欧州と米州にそれぞれ1議席ずつ与える。第2案は、任期は4年で、かつ連続して就任できる準常任理事国を8議席新設するとともに、非常任理事国を1議席増やし、準常任理事国についてはアフリカとアジア太平洋、欧州、米州にそれぞれ2議席ずつ与えるというものだ。アナン事務総長はいずれの案に賛成するかには言及していない。

2案いずれも拒否権は持たせていないが、常任理事国入りを目指す国が今後、数カ月以内に拒否権を獲得するためのロビー活動を展開するのは間違いない。

●自信の回復

2003年3月、米英が国連決議を経ないままイラク戦争を発動したことで、国連を中心とする集団安全メカニズムは著しく揺るがされてしまった。また「石油・食料交換計画」をめぐる不正疑惑や、コンゴ派遣の国連平和維持部隊による性的暴力事件も国連の名誉と信用を著しく損ねた。

中国国際問題研究所研究員で、中国国連協会の呉妙発理事は「国連が進めようとしている改革は、国連が直面する様々な問題と緊密な関係がある」と指摘。その上で呉妙発理事は「国連が直面している問題は主に3点ある。政治面においては、『機先を制す』『単独行動主義』といった戦略は、『国連憲章』の基本的宗旨と原則の基盤を根本的に揺るがし、国際システムの原則を損なう危険性をはらんでいる。経済面においては、南北間の格差は拡大し、多くの発展途上国がグローバル化の流れの縁に追いやられている。最貧国数は1990年代の43カ国から現在は49カ国まで増えており、うち36カ国で1人平均日収が2ドル以下だ。南北間格差は国内総生産(GDP)と巨額の債務の面にも表れている。1999年の米国の1人平均GDPは3万600ドルだが、アフリカのエチオピアは僅か100ドル。発展途上国が抱える西側先進国の債務は2億5000万ドルに上り、毎年4分の1の製品を輸出して返済に充てなければならない。こうした状況を変えなければ、世界はより不安定になる危険性がある。組織面においては、時代の変化へ適応と危機への対応という面から見れば、国連事務局は機構の設置、職員の配置から行政管理面に至るまで、機構の重複や職員の膨大化、会議の過多、決議の驚くほどの多さ、会議の非効率など、まだまだ理想的だとは言えない」と強調する。アナリストは「国連の現行体制は基本的には第2次世界大戦の産物であり、当時の世界の枠組みを反映したものだ。国家間の戦争を防止することが主目的だったからで、これにより米国と旧ソ連という超2大国間の対立はある程度緩和された。しかし90年代以降、世界の枠組みと安全をめぐる情勢は大きく様変わりした。ソ連解体後は米国が唯一の超大国となり、その力が極度に膨張するに伴い、国連の抑制機能はかつてないほどの困難に遭遇している」と指摘する。

●外的要因

「国連改革は決して国連だけの問題ではない。この国際政治の構築がスムーズに達成されるか否かは、幾つかの重要な要素により決定される」と呉妙発理事は指摘し、以下の3点を強調した。

第1に、米国はまず対国連政策を調整しなければならない。国連は第2次世界大戦後にルーズベルト元米大統領ら政治家が提唱して創設されたものであり、国連が成し遂げた業績から見れば、こうした政治家たちの聡明さと英知、先見の明がそこに具体的に表れている。また国際組織を創設した正確性と実効性がそこに示されている。米国は単独行動主義を国連に強要することはせず、誤った道を歩まないよう、こうした貴重な政治的財産を引き続き大切にしていくべきだ。

第2に、中国を含む全ての発展途上国は今後もたゆまぬ努力を払っていかなければならない。各方面から国連を力強く支持するとともに、意見や提案を積極的に出すようにし、国連をより強固なものにするために貢献していく必要がある。

第3に、事務局は仕事の中身を改善し、効率化していかなければならない。

呉妙発理事は「この3つの要素は補完的で、密接に関係するものであり、1要素でも欠ければ国連の改革達成は難しくなる」と指摘する。

■アナン事務総長の改革案要旨

◇安全問題

*武力行使の権限を授与する際の脅威の重大性、武力行使の目的、軍事的選択と脅威が整合するか否か、軍事行動の成功など、順守すべき原則を明確にする。

*テロリズムについて定義する。

*反核テロリズムに関する協定を締結すると同時に、高濃縮ウラン・プルトニウム拡散防止に関する交渉を加速する。2006年9月までに包括的な反テロ条約を締結する。

*事務総長が提出した国連の包括的反テロ戦略を実施する。

*加盟国は『核兵器拡散防止条約』『生物毒素兵器条約』及び『化学兵器条約』の全ての条項を確実に順守することを確約する。

*非核保有国が核エネルギーを平和利用するための原料供給を保証することで、そのウラン濃縮とプルトニウム分離の開発能力を防止する。

*紛争の苦しみをいやというほど味わった国が持続的な平和を得られるよう、政府間の平和構築委員会を設置する。

◇国連の組織改革

*高級諮問委員会が提言した2案のうちの1案を運用し安保理の構成国を拡大する。

*国連総会の審議過程と構造を簡素化し、政策決定の効率向上を図る。

◇人権

*小規模な常設人権理事会を、総会の主要機構、または総会の付設機構として人権委員会の代替とし、構成国は国連総会が直接選出する。

◇開発

*全ての発展途上国は、2006年までに充実しかつ果敢な包括的国家戦略を制定するとともに実行に移し、ミレニアム発展目標にある2015年までの具体的目標を実現しなければならない。

*国際社会が、国連エイズ計画とその協力団体が提起するエイズウイルス・エイズ拡大総合対応措置に対し必要な物資等を緊急に提供するとともに、世界エイズ・結核・マラリア防止基金に十分な資金を提供するようにする。

*国際金融ファシリティ(基金)を創設し、発展途上国が将来の海外での発展への援助を確約することで融資が受けられるようにする。

*債務の持続可能な能力に関しては、1つの国がミレニアム発展目標を実現し、2015年までの具体的目標が達成できるよう基準の設定を見直すほか、債務比率の水準は引き上げないようにする。

*遅くとも2006年までにWTO多国間貿易交渉のドーハラウンドを終了させ、発展を重点とする目標の達成に十分に力を尽くし、その第1歩として最貧困に対しては全ての輸出品に対し非関税を実行するとともに、割当額を設定せず市場に参入させる。

◇自然災害の予防

*その国・地域の現在の能力を踏まえた上で、あらゆる自然災害に対処したグローバルな早期警戒システムを構築する。