2005 No.19
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>>争鳴

義務教育期間の延長は当面の急務か

教育問題、とりわけ義務教育問題が異なる業種、異なる分野、異なる地域の人々に今日のように強く叫ばれたことは過去なかった。今年3月に開かれた第10期全国人民代表大会(全人代)第3回会議は、30人以上の代表の連名による提案を991件受理したが、一つの法律について言えば、教育に関するものが多く、約30件、900人余りが提案したが、これは代表たちが教育への関心の高さを示すものだ。

9年制義務教育の推進・普及は、1986年に義務教育法を公布して以来すでに20年近くがたつ。同法第5条は「凡そ満6歳になった児童は、性別、民族を問わず、入学して規定年限の義務教育を受けなければならない」と規定。第10条は「国は義務教育を受ける児童・生徒の授業料を免除する」と定めている。 

今回の会議では、ある代表の提出した「国に義務教育期間の延長を新たな教育目標とするよう呼びかける」提案が、会場内外で関心と議論を呼び起こした。

反対派は、この提案は性急しすぎていると主張する。国は義務教育は4段階に分けて普及させていく計画だ。第1段階では、全国592の国家クラス貧困県の貧困家庭の子供に義務教育を受けさせる。第2段階では、農村のすべての貧困家庭の子供が入学できるようにする。第3段階では、全農村で義務教育の普及を実現する。第4段階では、都市部で全面的な義務教育を実現する。ここから見れば、現在はまだ第1段階から第2段階への移行段階に留まっている。2007年までに全農村の貧困家庭の子供がすべて入学できるようになっても、義務教育の全面的な実現にまでの道のりはまだ長い。

賛成派はこう主張する。アジア開発銀行(ADB)の報告によると、世界190数カ国のうち、170数カ国がすでに義務教育を実現した。アジアでは、先進国を除いて、ほとんどの国が、1人当たり国内総生産(GDP)がわずか中国の3分の1のラオス、カンボジア、バングラデシュも義務教育を実現しており、中国もそうできる国力と財政能力とを備えている。また、義務教育期間を延長すれば、就業難など一連の問題を解決できるとしている。

フリーライターの張浩氏:12年制義務教育を実施する機はまだ熟していないと思う。その理由は3つ挙げられる。

第1は、9年制義務教育はまだ完全に普及していないことだ。2003年の統計データによると、全国にはまだ義務教育が普及していない県が400余りもある。周済・教育部長は今年1月27日に開かれた国務院の記者会見で「中国の西部では8%の地区でまだ9年制義務教育が普及しておらず、しかも非常に貧しい」と語っている。これらの地区のように、9年制義務教育すら普及していない段階で12年制義務教育は語れないだろう。都市部と農村部との教育面での格差を拡大させるだけだ。

第2は、12年制義務教育の実施により一連の問題がもたらされることだ。経済・社会的原因から、義務教育は非常に大きな困難と問題に直面してきた。義務教育全般のレベルは依然低く、基盤は脆弱で、発展のアンバランスといった問題も非常に深刻であり、地域の間や都市部と農村部の間で、学校運営の条件、教師の資質などの面で大きな格差が存在している。すでに9年制義務教育を実施している農村地区でも、運営条件を改善しなければならない小中学校もあり、教師の資質もまだ資質教育の要求に合わず、経費の投入も不足しているなどの問題がある。こうした問題は適時解決されるのだろうか。

また、現在12年制義務教育を実施するなら、もともと存在している教育の不公平さを増幅させるのは必至だ。数少ないが、北京や上海などは9年制義務教育を普及させ、更に高い教育目標へ向けて進んではいる。だが否定できないのは、少なからぬ地区、とりわけ辺ぴで立ち遅れている地区では、9年制義務教育の実現は望んでも望むべくもないということだ。都市部と農村部との教育面での格差はそれほど大きいのだ。

必要なのは名実相伴う9年制義務教育であり、“功を焦る”12年制義務教育ではない。9年制義務教育が全面的に普及し、現在の教育の不公平さといった問題が解決されてから12年制義務教育を語っても遅くはないだろうと思う。

大慶放送・テレビ大学の研究員商江氏: いつ12年制義務教育を普及させるかは、その国の総合力によって決まるものであり、冷静さを失い、功を急いではいけない。

高校を義務教育に組み入れた場合、年間7500億元(現在の在校生数2億5000万人、年間1人平均教育費3000元で計算)の経費が必要となる。国務院は、2010年までに9年制義務教育の費用全額免除を実現する方針を打ち出しているものの、関係機関は高校の義務教育をいつ実施するかについては言及していない。

改革・開放以来、経済は急速な発展を続け、経済成長率は世界のトップクラスにあり、経済総量は世界7位にランクされている。国際通貨基金(IMF)の試算によると、中国の1人平均GDPはすでに1995年の580ドルから2000年には848ドルに増えた。また、世界銀行の策定した基準と統計データによると、1999年の1人平均GDPは780ドルと、世界206カ国の中で140位にランクされ、中所得国の下位となって、質的な躍進を実現した。社会主義の初期段階と中所得国の下位に位置しているため、教育の近代化を実現するにはまだ多くの困難があり、任重く道遠しであり、中所得国レベルに達するのは恐らく2050年ごろにだろう。従って、基礎教育については、適度に時代を先取りして発展させることを主眼に、資質教育の実施を主軸に、教育体制とカリキュラムの改革を進めながら、教育の近代化を促していくべきである。こうすれば、2005年か2010年までには、一部の発達した地区は中所得国の教育レベルに達すると見込まれる。

期待させる12年制義務教育

フリーライターの万全氏:義務教育は1980年代から始まり、十数年にわたり普及に努めてきたことから、幾つかの少数民族地区、革命戦争時代に早期解放された地区、辺ぴな地区、貧困地区を除いて、大多数の地区で普及目標は達成された。だが、義務教育は中学までであるため、貧困家庭の子供、とりわけ農村の子供は中学を卒業しても高校に入学できない。やむなく社会に出て、働こうとしても、雇ってくれるところはなく、畑仕事にも身が入らず、一日中ぶらぶらして暇をもて余している。家庭に負担をかけ、社会の不安定要素ともなる。12年制義務教育を推し進めるなら、こうした問題が解決されるほか、メリットもあると思う。

第一は、就職難を緩和できることだ。専門家の試算によると、今後20年間に16歳以上の人口は年平均550万人の規模で増えていき、2020年に労働人口は9億4000万人に達する。12年制義務教育を実施すれば、一部の人口の就職時期を3年ないしそれ以上遅らせ、就職のピークを先送りすることで、就職難を軽減できる。   

第二は、貧困家庭の子女に「知識資産」を持たせられることだ。貧困には、経済的貧困と知的貧困とがある。経済的貧困は一時的なものであり、努力すれば解決できる。知的貧困は根本的なものであり、解決できなければ、その人が成長していくのは難しい。また、たとえ一時的に経済的貧困から抜け出したとしても、その状態を維持していくことも難しい。12年制義務教育を推し進めることは、次の世代に知的資産を積ませることであり、言えば、貧困解決のカギを捉えることでもあり、経済的貧困から脱却する上で重要な意義がある。

第三は、国民全体の資質を高めることだ。「百年大計は、教育を本とする」。

義務教育の期間を3年延長し、すべての適齢期の子供により多く、より良い教育を受けさせることは、重い人口の負担を巨大な人的資源という強味に変えるための根本的な方策であり、近代化建設を促進し、中華民族の偉大な復興を実現する基礎プロジェクトでもある。

第四は、「三農」(農村、農業、農民)問題の解決にプラスになることだ。「三農」で核心的な問題となるのは農民であり、農民の資質がどうであるかが、最も重要なカギだ。資質は何に由来するのか。教育の程度に由来する。義務教育の期間を3年延長すれば、農民により多くの知識を身につけさせ、豊かになる技能を高めさせることによって「三農」問題を解決できる。

国力の増強につれ、中国は義務教育をさらに推進する力を持つまでになった。12年制義務教育を実施する日が1日も早く来るよう期待している。